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【LEADERS・経営者に聞く】(14) 技術革新、保険の出番だ――永野毅氏(『東京海上ホールディングス』社長)

自動運転の普及等技術革新の加速で、人々の“備え”はどう変わっていくのか? 損害保険の最大手である『東京海上ホールディングス』の永野毅社長に聞いた。 (聞き手/調査研究本部主任研究員兼編集委員 佐々木達也)



20180420 08
「どんな時代でもリスクは無くならない。そこに、我々の存在意義があります。国内の売上高の半分を占めている自動車保険は、完全に自動運転の世界になったらどうなるのか? 将来の脅威としては考えています。でも、新しい技術が出てくれば、また新しいリスクも生まれる。自動運転の普及は、技術やシェアリングエコノミー(※共有型経済)の進展、法律の整備、人が受け入れるかどうかという文化等、多くの要素が重なって、紆余曲折を経ながら進んでいくでしょう。最終的には、完全無人の運転や高度な公共交通システムに発展していくかもしれません。ただ、過渡期には、事故が発生した時の賠償責任は、その立証も含めて物凄く複雑な仕組みが必要になる」。『東京海上日動火災保険』は2017年4月から、自動運転時の車の事故について補償する特約を、全ての自動車保険に付けた。「自動運転では、運転者の過失ではない誤作動等で事故が起きると、責任がどこにあるかわからないことが想定されます。その場合でも、一旦被害者に保険金を支払い、責任の所在を突き止めた時点で、当社が(システム開発者等の)相手方に賠償を求めます。技術進化の過程ではリスクは多様化する。逆に、保険の出番は増えると思っています。他にも、時代の変化で生まれるリスクは多い。典型的なのはサイバー攻撃です。保険は、対象となる1つのリスクが大きく、補償額が大き過ぎると成り立たない。リスクを分散する必要があります。サイバーリスクは、例えば保険を販売する場所が日本とアメリカに分かれていても、守るべきデータがインターネット上等で1つに集約されている場合がある」。

「1ヵ所攻撃されると、全て被害を受ける恐れがあり、現状は大きな金額の保険を販売するのは難しい。今後、サイバーリスクを解析していくことができれば、保険の市場も非常に大きなものになるでしょう。お客様が要望すれば保険にならないものはない。当社はグループで生命保険も手がけており、健康・医療分野に着目しています。機器を腕に付けてもらい、歩けば歩くほど保険料を割り引く保険や、不妊治療向けの保険、中小企業やプロスポーツチームの経営を支援する保険等、新分野に力を入れています。日本は、自然災害という大きなリスクも抱えた国です。活火山の数や台風が直撃する数、集中豪雨等も世界的に見て多く、逃れようがない。スイスの保険会社の調査によると、自然災害の経済損失で、日本は世界の2割程を占めているといいます。元々、損保会社の役割の大きな国なのです。その日本の顧客を守る為にも、我々は外へ出て行かなくてはいけない。海外の事業を強化し、グループとしての経営を安定化させることを常に考えています」。東京海上HDは2015年、アメリカの保険大手『HCC』を約1兆円で買収する等、海外事業の拡大を進めている。2017年3月期は利益の41%を海外で稼いだ。「今後、5年ほどはインドネシア、マレーシア、インド等、特にアジアのビジネスを伸ばしていきたい。自前での事業拡大に加え、チャンスがあればM&Aも進めていく。新興国の成長を取り込むと共に、事業的にも地理的にもリスク分散を進める狙いがあります。最近は、世界で自然災害のリスクが高まっているように見えます。日本近海で海面の温度が上がり、台風の威力が増してくると言われている。世界中で、集中豪雨の起き易いところにもっと激しい豪雨が起きる“極端化現象”が広がっています。昨年はアメリカでハリケーンの被害が大きかった。世界の自然災害による経済損失は年々増えている。日本は防災先進国であり、その経験は世界で役立つと思っています。高校・大学と水泳部で遠泳をしていました。大学4年の時には、静岡県の下田から伊豆大島まで42㎞をクロールで泳ぎ切りました。遠泳というのは、今の“ひとかき”が全く無意味なものに思えることがある。流されて戻っていることもあります。でも、最後は着く。砂浜に足が触れた瞬間、『あの時のひとかきがあったから今がある』と気付くんです。仕事も同じですよね。地味で毎日の歩みは目に見えなくても、続ければ必ずゴールに近付く。遠泳で学びました。東京海上に入ったのも、水泳部の先輩に誘われたから」。

20180420 09
「入社後に一番辛かったのは、商品開発担当として、生保と損保を一体化した商品“超保険”を作った時です。保険の自由化が進む中、当時の樋口公啓社長から「何か1つあれば自分も家族も安心な保険ができないか?」と言われたことから始まりました。社内に10人程の精鋭部隊を結成。商品のコンセプトを練り、認可を得る為に金融庁に通い詰めました」。超保険は、自動車・火災・医療等ばらばらの保険を纏め、補償の漏れや重複を防ぐ商品として2002年に発売。「初日の契約は全国で僅か十数件。1000件はあると思っていました。商品が先進的過ぎたのでしょう。システム開発に100億円以上かけたのに鳴かず飛ばず。社内では『早く止めたほうがいい』との声も出ました。でも、若い社員や全国の代理店の人たちは、『商品の考え方は間違っていない』と歯を食いしばってくれた。代理店からは、『将来の私たちを支える商品なんだから、しょんぼりしないで頑張れ』と励ましの声ももらいました。今では約200万世帯が加入する主力商品です。成功できたのは、お客様の相談を受けながら、“世界に1つしかない保険”を組み立てるという明確なストーリー性があったからだと思います。ビッグデータやAI等で、保険の仕事にも技術革新の波が押し寄せています。加入手続きを簡素化したり、事故時のサービスを効率化したり。同じ商品を多くの人に売るやり方から、お客様の属性・好み・家族の状況等に応じてカスタマイズすることも容易になった。ただ、技術ばかり集めればいいかというと、違う。技術が優れていても、ストーリーが無くては商品は売れません。社会がどう変わっていくかを見通し、人々が幸せになるストーリーを描く。それができる人間を育てることが、今の私の最大の仕事です」。


⦿読売新聞 2018年4月17日付掲載⦿




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テーマ : 経済
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