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高田郁「八朔の雪―みをつくし料理帖」

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神田御台所町で江戸の人々には馴染みの薄い上方料理を出す「つる家」。店を任され、調理場で腕を振るう澪は、故郷の大坂で、少女の頃に水害で両親を失い、天涯孤独の身であった。大坂と江戸の味の違いに戸惑いながらも、天性の味覚と負けん気で、日々研鑽を重ねる澪。しかし、そんなある日、彼女の腕を妬み、名料理屋「登龍楼」が非道な妨害をしかけてきたが・・・・・。料理だけが自分の仕合わせへの道筋と定めた澪の奮闘と、それを囲む人々の人情が織りなす、連作時代小説の傑作ここに誕生!
(Amazon内容紹介より)

あれは2017年の夏。

娘の夏休み課題図書の一冊だった、高田郁の「出世花」いやこれが面白くってさあ!

「出世花」および続編の「蓮花の契り」につきましては、当ブログでも熱く語らせて頂きましたが、当時ブログをお読み頂いた方より「みをつくし料理帖も面白いよ」とご指南頂いておりました。
しかしながらですね。「出世花」→「蓮花の契り」と読み進んで、高田郁に対するこちらの期待ハードルがグングン上がっている状態な訳ですよ。

このハードルを超えられるのはブブカぐらいなんじゃないか、期待して裏切られたガッカリ感を恐れて震える小鳩のような乙女心、さくら48歳。

その反面、楽しみはゆっくりと、じっくり焦らすのも女の手練手管のウチよと思う熟女、さくら48歳。
……と、言い訳をしているうちに、1年たっちゃいました。

一年越しの渇望。満を持してついに手に取った「みをつくし料理帖」シリーズ1冊目の「八朔の雪」

果たして高田郁は、ブブカを超えるか?!

「七色唐辛子……」
主従は互いに顔を見合わせ、競うようにもう一度その鰹田麩を口にした。
凡庸な風味のはずが、唐辛子のつんと鼻に抜ける辛さ、胡麻の香ばしさで全く別の風味になっている。麻実のこつこつした食感も面白い。爽やかなあと口は陳皮の賜か。
「お澪坊、こいつはいける」
はい、と先ほどまで泣いていたのも忘れて、澪は意気込んで頷いた。

ハナっから自分語りですいません。
「みをつくし料理帖」の話に、さっそく参りましょう。
シリーズ主人公のお澪ちゃん、うら若き乙女18歳。

大阪の水害で幼い頃に両親を亡くし、引き取られた先の料亭は火事で焼け落ち、縁者を頼って江戸に出てみれば、頼りの若旦那はんは虎の子を引っさらって蓄電。

病身の女将さんを抱えて二人きり、家も仕事もなく広いお江戸で途方にくれる…と、子供の頃から不幸が雨あられと降ってくる。

あの不運な女探偵葉村晶さんにも負けず劣らずの不運な女主人公です。

ふとしたご縁で神田明神近くのお蕎麦屋さん「つる家」で働けることにはなったものの、お澪ちゃん、生まれが大阪なもんで。
関東の濃い味付けや、まっくろの醤油にはどうしても慣れないのですよ。
彼女が作る創作料理も、気性の荒いお江戸の職人たちには全くもって不評。
さてどうしたもんだか。まいっちんぐマチコ先生(古い)

「教えてください。何が……何が悪かったのでしょう?」
躊躇いながら切り出すと、あとは口をついて言葉が溢れた。
「私の作る料理は、どこが駄目なのでしょう?この店に雇われて三月。今日、初めて料理を作らせて頂いたのに、あの有様です。旦那さんに申し訳のうて……どないしたらええんか、わからんようになってしもて」
くに訛りが出たことにも気づかないほど、澪は夢中だった。

お澪ちゃんの不幸は実のところ、生まれ持った定めのようなものでございます。
彼女がまだ子供時分、お友達の野江ちゃんのお屋敷に高名な易者が逗留したことがありました。
その易者いわく。お澪の手相は“雲外蒼天”の相であると。

この先のお澪の人生、ありとあらゆる艱難辛苦が降り注ぐ。が、それを乗り越えればまっさおな晴れ空を望むことができる相であると。

ちっこい頃から不幸な人生を約束されてしまったお澪ちゃん。
一緒にいた野江ちゃんは、天に昇る朝日の“旭日昇天”の大強運とまで言われていたのにねえ。
で、つまり、だ。
この「みをつくし料理帖」シリーズ。この先の2冊目、3冊目…とも、主人公の身にはあれでもかこれでもかとトラブルが舞い込むことが、既に約束されている訳ですよ。
罪深いのは易者なのか、それとも高田郁か。

とはいえ、ずっと雨続きばかりでは読者の読む気も失せるってものです。
雨の間にはちょっとだけ、晴れ間も覗きますよ。

少しずつお澪が江戸の味に慣れて行くに従い、江戸っ子達のおごった口にも受け入れられる料理を提供できるようになります。

やがて、彼女の努力の結晶「とろとろ茶碗蒸し」が大評判になり、江戸の料理番付(江戸版ミシュランガイド。本当に存在したらしい)に掲載されるほどまでに!
つる家おおもうけ!お澪ちゃん大出世!

 

…が、またそこからが雨模様。つる家の評判に嫉妬した料理屋「登龍楼」からの影に日向にのいやがらせ。果ては店に放火されて「つる家」全焼、焼け跡に。

マジですか。また火事ですか。

雲外蒼天。
そうだ、長く忘れていたが、易者の水原東西は、澪に艱難辛苦が降り注ぐ、と予言した後、確かにこう言葉を続けたのだ。
——けんど、その苦労に耐えて精進を重ねれば、必ずや真っ青な空を望むことが出来る。他の誰も拝めんほど澄んだ綺麗な空を。ええか、よう覚えときや。
長い間、垂れ込めた雲ばかりに気を取られてきた。その上に広がる青い空を忘れてしまっていたのだ。
見てやろう。どうあっても、青い空を。

いつか厚い雲が切れて、まっさおな蒼空を仰げる日は来るのか。
つる家の再建に再び立ち上がったお澪ちゃん。ここからのシリーズ、長そうだ。

私の楽しみも、まだ長く続きそう。あー楽しみだー。高田郁のブブカ超え、楽しみだー。

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