“至るところにある妄想”
 珍しく「文藝春秋」を買った。10月号だ。日韓断絶の総力特集を読むためではない。
 新聞広告で、村上春樹の「この夏、ドイツでワーグナーと向き合って考えたこと」という特別寄稿文が載っていることを知ったからだ。
 
BungeiShunjyu201910a

BungeiShunjyu201910b

 意外だったのは冒頭の文章。

 最初にお断りしておきたいのだが、僕はとくに熱烈なワーグナー愛好者というわけではない。世の中にはディープなワーグネリアン(ワーグナー信者)が少なからずおられるようだが、そういう類のファンではない。クラシック音楽は昔からわりに熱心に聴いてはいるけれど、僕がふだん愛好するのは室内楽か器楽曲か、あるいはバロック音楽が中心で、大がかりな音楽はそれほど頻繁には聴かない。

 ふ~ん。春樹氏がワグネリアンだと思ったことはないけど、こういう作品をかいているくらいだから、けっこうよく聴く作曲家だと漠然と思っていた。

 そして、近年の私も春樹氏と一緒だ。大がかりな音楽はそれほど頻繁には聴かなくなってきている。
 いま、部屋に流れているのはベートーヴェンの交響曲第8番である。たぶんコンサートのメインには据えられない曲だ。

  私にはあらゆる点で絶対に無理
 さて、バイロイト音楽祭である。

 ワーグナーという作曲家にほとんど関心のない私には、どんな様子の劇場なのか全然知らなかったが、村上レポートを興味深く読ませていただいた。

 劇場の客席は二千ほどだが、ぎっしり満員。見渡す限り空席はただのひとつもない。文字通りすし詰めの状態だ。風通しも皆無なので、時間が経過するにつれて、人いきれで劇場の中はどんどん暑くなっていく。僕も初めは上着をきちんと着ていたのだが、三幕目には我慢できずに脱ぐ。その頃には、ほとんどの男性客が白いシャツ姿になっている。暑いのでできるだけ水分をとらなくてはならないのだが、なにしろ席が狭く、一度腰を下ろしたらもう外には出られない。途中で洗面所に立つなんてことはまったく論外だ。

 ひぇぇぇぇ~である。寿司が食いたくなってきたぜぇ。
 いやいや、そうじゃなくて、“論外”という状況とは!

 私なら脱水症状で死ぬか、失禁で死ぬほど恥ずかしい思いをするかのどちらかになるのは必至だ。
 自分がバイロイト詣でをしたくなるほどの熱烈なワグネリアンにならなかったことに、感謝する。だれに対してか、はわからないけど。

WagnerTennstedt そして村上春樹氏が、こういう音楽書には書かれてないような裏話を報告てくれたことに感謝したい(もちろんこのときの出し物の演出や演奏についても書かれているが、ここでは触れない←わたし的に関心が薄いし)。

 ワーグナー(Richard Wagner 1813-83 ドイツ)の楽劇「トリスタンとイゾルデ(Tristan und Isolde)」(1857-59)から「愛の死『優しくかすかな彼のほほえみ』(Liebestod 'Mild und leise wie er lachelt')」。

 ノーマンのソプラノ、テンシュテット/ロンドン・フィルの演奏を。

 1987年録音。EMI。

 もし、あなたがいま、「文藝春秋」を買うことを検討中なら、早くしたほうがよい(日韓断絶特集もなかなかおもしろかった)。

BungeiShuinjyu201910c

 今日の夕方、札幌からムッカマール氏とアルフレッド氏、そして姥向井さんが出張で、当大阪支社を訪れることになっている。
 夕食をともにするのは言うまでもない。

 アルフレッド氏から昨日届いたSMSには「明日よろしくお願いします。ドキドキで今日寝れるか心配です!」と書いてあった。いや不安による不眠の心配ではない。私と会うのが楽しみで、超興奮状態に陥っているのである。
 今回の訪問について、彼が私に予定を聞いてきたのは、なんと4月のこと。
 即、話がまとまったあとに来たSMSの返信は「ずいぶん先の話ですが、今から楽しみで楽しみでちびりそうです!」というものだった。
 今日、飛行機の中でちびらないことを祈っている。