2013年11月8日金曜日

【社会派漫画】画:加藤伸吉、作:杉元伶一「国民クイズ」【思想漫画】



講談社モーニングKCで出版され単行本全4巻
絶版になったもののファンからの熱烈な要望で太田出版から再販されている。

近未来の日本が舞台。

漫画内では、日本は最大の貿易黒字により
世界最大の経済大国になっている。

そして各国に経済的援助する代わりにアメリカの原子力潜水艦を担保として保有するなど
世界一の核保有国家でもあり軍事力を持っている。

軍事大国の日本は民主主義を捨て、「国民クイズ」に参加し合格する事で、
何でも願いが叶う権利・権威を持つ全体主義社会。

例えば「国民クイズ」に合格しエッフェル塔が欲しいという願いも叶えてしまう。

実際に実行部隊を派遣しフランスから奪ってくる。

一見無茶苦茶だが、それが出来るだけの政治力、軍事力が日本にある。

日本は世界のリーダー的な存在。

その他にも嫌いな、憎い人を殺してくれという願いもすらも叶えてしまう。

合格者の願いの前には倫理やモラルなど一切関係なく遂行されていく。

しかし不合格になるとシベリアで20年強制労働に課せられるなどリスクもある。

そしてこの漫画は、国民クイズの司会者「K井K一」氏の物語。

絵と話の内容、テンポが上手く噛みあっていてポップな漫画。

リズミカル良く進む物語ではあるが、
内容のきわどさと相まって読者のモラルも破壊していく作品。

ディストピア漫画の最高傑作。

国民クイズの合格者により社会全体が動き・管理されていく。
合格者個人の欲望によって管理された特殊な全体主義。

無茶苦茶面白い漫画だが、
読了後凄く疲れる。

おもしろいがスッゴク疲れる。

読み応えがあるというのとは別に精神的にやられてしまう。

パワプルな展開・内容を成り立たせる原動力の欲望や
社会に渦巻く感情で読み手を疲弊させられてしまう。

言い換えれば、読者を疲れさせる程の力を持った作品でもある。


2013年11月7日木曜日

【恋愛電波漫画】谷川 ニコ 「ちょく!」【感想】



スクウェアエニックスのインターネット上で
ウェブコミック配信サイト「ガンガンONLINE」で配信された
谷川 ニコ 先生の漫画「ちょく!」全四巻。


オタクで根暗だが可愛い顔した主人公の水橋 直が
赤井 芹花に惚れらるという話。

そしてこの漫画のヒロイン赤井 芹花が大の問題児!

メンヘラ娘というより電波娘。

まともなコミュニケーションは無理!
意思疎通がまともにとれない少女。

思考回路が常人とは一味違う。

何が違うって赤井 芹花は、
大好きな直の事しか考えない。

これだけ聞けば普通だと思うが、
直の気持ちや感情を一切考慮せず、

自分が直と何したいか?どうしたいか?

この二つの事だけを考え行動するもんだから、
次から次へと直は色々な被害を被ってしまう。

セリカに翻弄されるナオ。

個人的にはセリカの変人具合が好き。

セリカはとっても純粋。

しかしその純粋は、あくまで自分の気持ちに対してのみ純粋で、
ナオや周りの事を一切考えず行動するもんだから暴走する。

この手のキャラに自分は弱い。
「純粋さ」という言葉の負の部分をもったキャラにとことこん弱い。
ついついはまってしまう。

しかし、反対にこの手のキャラが嫌いな人には全然受け付けない漫画だろう

2013年11月6日水曜日

【少女漫画感想】いくえみ綾「潔く柔く」【映画化・男目線で感想】



映画化も決定し、既に公開されている、
いくえみ綾さんの「潔く柔く」。

「Cookie」(集英社)2004年~2010年まで連載、全13巻。

大好きな少女漫画家のいくえみ綾の長編シリーズ。

この漫画家さんの作品は男性でも楽しめる。

少女漫画にありがちな「恋愛」をモチーフにするのではなく、
いくえみ綾さんの漫画は「人間」そして「繋がり」が根底にある。

人との繋がりに置いて、自然に色々な感情が生まれる。
その一つが恋愛だったりする。

その根底があるからいくえみ綾さんの漫画は自然と読み進められる。

そして今回の「潔く柔く」も素晴らしい作品。

この漫画は、瀬戸カンナの物語。

幼馴染を高校時代に事故で亡くし、
カンナは心に癒えない傷を負う。

高校を卒業し、大学生になっても傷は癒えずに、
彼女の時間は止まったまま。

そしてカンナとハルタの関係する人物達がそれそれ主人公になる群像作品。

彼ら、彼女らは瀬戸カンナとハルタと何らかの形で繋がる。

カンナは癒されるのだろうか。

カンナの再生の物語。

いくえみ綾氏の作品全体に言える事だが、
一見恋愛漫画に見えて、
実際は「傷」、「癒」、「繋がり」、再生の物語である事が多い。

この「潔く柔く」も再生の物語である。

そして今作は「時間」を大切に描いている

カンナは社会人になり、ある出会いをする事により、またカンナの時間は進み出す。

カンナが癒えるのに7~8年の「時間」を必要とした。

カンナ編は高校編、大学編、社会人編とあるが、とても丁寧に描かれている。

そしてこの時間の長さがカンナの傷の深さをも表現している。

作者のいくえみ綾氏は我慢強くカンナの心を描いき、
時間をカンナに与えてあげている。

そしてその事で作品により一層の深みを与えてる

いくえみ綾氏のような「人間」を描く事が上手い作者の特徴でもあるが、
登場人物を焦らせない、そして時間を与えて、じっくり見守りながら描いている。



本当に素晴らしい作品です。