苦手な家事は苦手なままで人に任せてしまうのが正解である

あら、何かしら、突然、気持ち悪いわね。どうして私がそんな事をしなければならないのかしら

さぁ、どうかしらね。頻繁にではないけれど、ごくたまにやったりする事もあるんじゃないかしら。記憶では一度しかないわよ。手つきが危ないとか何とか言われて辞めさせられてしまったわ

ええ、そうね。それがどうかしたのかしら。あなたの話したい話題とは全く関係が無いじゃないの

引っぱたくわよ

うるさいわね。どうせ【料理をするたびに毎回油を熱し過ぎてボヤ騒ぎを起こす反省点も改善点も見られない強気で強火な火事場のバカ女】と言いたいんでしょう？フライドポテトを揚げている時は鍋の前から離れたりしないわよ。どうして私が火事ばかり起こしているようなうっかり人間と思われているのかしら、失礼な

うるさいわね。とにかく私は一度しか経験が無いわ。ジャガイモを切ったりするのに使う事もあるけれど、ほとんど包丁なんて使わないからきっと困らないわよ

まぁ、あなたがしつこく訊くから鍛冶の話をしてるんじゃないの。私にどうしてそんな質問をするのかよく分からないけれど、刀鍛冶の真似事なんて一度しか経験が無いわよ。包丁を研いだ事が一度あるだけね

うるさいわね。突然あなたが刀匠か何かのドキュメント番組を観て刀鍛冶に目覚めた可能性だって否定出来ないじゃないの。あなたのためにまさに真剣に、想いと言葉を研ぎ澄ませて会話をしているのにどうしてその善意と想いを無闇に無残に無下に切り刻まれなければならないのかしら、腹立たしいわね。あなたのような狼藉者は今後夜道に気をつけた方が良いわよ

ええ、そうでしょうね。最初から分かっていたに決まってるじゃないの。そんな話をしても盛り上がりそうにないから違う話をしていたのよ

うるさいわね。本当にその言葉を返して欲しいなら何度でも言ってあげるわよ。ごめん。これで良いのかしら

何をごにょごにょ冗談でウソの情報を話したらあっと言う間にクラス中に広まって盛り上がってしまって引くに引けなくなってしまった男のようにつぶやいているのかしら、気持ち悪いわね。気を使って盛り上がりそうにない会話を熱して鍛えて冷まして強固なものにしてあげたのよ。良かったわね、すぐ近くに優れた会話鍛冶がいて

あら、私の実力を疑って試そうとしているのね、失礼な。言われなくてもいつも会話の家事の繰り返しよ。あなたが発する余計な言葉を掃除したり、あなたが発する汚れた言葉を洗濯したり、あなたが発する素材そのものの言葉を料理したり……

ええ、そうね。私はあなたとしか会話しないからあなたに関する事しか無いわよ。どうして嫌がるのかしら、失礼な。戦場に赴任させるわよ

違うわよ。専業主婦になるわよ、って言ったの。私にはあなたしか……って、何を言わせるのかしら、いかがわしいわね

……あらそう。私の炊事は用意してくれるのね。更に私の洗濯と掃除をしてくれるのね。そんなに主夫がやりたいなら勝手にすれば良いじゃないの