鏡川水系最後の秘境・鳴呼の滝(高知市土佐山) | 次世代に遺したい自然や史跡

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毎年WEB初公開となる無名伝承地や史跡、マイナーな景勝・奇勝を発表。戦争遺跡や鉄道関連、坂本龍馬等の偉人のマイナー伝承地も。学芸員資格を持つ元高知新聞主管講座講師が解説。

[深山幽谷なる神聖な滝]

高知市土佐山(旧土佐山村)桑尾の車道終点手前には毎年、受験シーズンが到来すると祈願者が訪れるゴトゴト石(2枚目の写真)という、落ちそうで落ちない大石があるが、その先の駐車場からは落差30mの豪快な「山姥の滝」を望むことができる。この滝は鏡川の支流に懸かっている。

 

その滝の登山口の道標には、山姥の滝と共に「鳴呼の滝(なるこのたき)」(下の写真)も表示されているが、後者の滝の登山道は廃道化して久しい。この滝は三段になって落下する滝で、二段目の滝壺を鳴呼淵と言う。

 

猫の額ほどの滝壺だが、ここは山姥の滝に棲みついていた山姥の元の棲み処(すみか)である。また、赤い色をした蛇神が渕の主であるとも言われ、近代の各種怪異譚がある。

 

滝の規模自体は山姥の滝の半分ほどだが、周囲には秘境感が漂っており、道(所々残る)の終点にある三段目の滝壺は美しく、非常に涼しい。山姥の滝のように飛沫が身体に懸かるということもない。

 

その山姥の滝(下の写真とその下の写真)から鳴呼の滝に到るまでの間の沢の本流と支流には、複数の無名の滝も懸かっているが、ルートは終盤、沢を遡行するようになり、本流や支流の激流の飛沫を浴びながら進む。

 

岸沿いに設置された伏せ石等は渓流が勢いよくその上を流れているため、歩くことができず、岸の岩盤の木の根等に掴まり、へつりながら進む箇所もあるが、シャワークライミングさながらの遡行は、真夏日等は気持ちいい。但し、ルートの何割かは廃道化しているため、最低限のルートファインディング力が要求される。

 

ネットでは山姥の滝の滝壺前を渡渉して行くルートを記した地形図が公開されているが、その渡渉地には滑り易い岩があるため、沢登り用シューズでないと「普通に」登ることは困難。但し、足を使わず、懸垂力のみでその岩に登ることは可能。

 

普通のトレッキングシューズでも渡渉できる地点は、その滝壺の手前。山姥の滝(下の地図)の探勝コース(滝壺まで徒歩57分程度)が滝の下流に接近すると、左手の道沿いに細くて黒い塩ビ管が吊るされた手摺が現れるが、その手摺の起点の向かいから沢に下りる踏み跡が付いている。

 

ここから沢に下り、上面が平たい岩に飛び移ると、対岸に山道がジグザグに上っている。この道の最高所から右手の斜面を上がる踏み跡を登る。

そして高度計高度455m(誤差あり)地点で南北に走るしっかりした道に合流し、左折する。

 

道は山姥の滝の上流に出ており、そこから更に上流を望むと、二条になって落下する無名の滝が見える。「山姥夫婦滝」(下の写真)とでも名付けたいが、鳴呼の滝へは、そこから数メートル引き返し、植林帯の中を南東に折り返して行く。その踏み跡は非常に薄く、獣道程度故、山慣れた者でないと「ルート」として認識できないかも知れない。

 

ずり落ちるほどの急登箇所もあるが、高度計高度495m地点でX字路に出て、ここをまた左折する。この道も前述の南北に走る道のようにしっかりした往還。但し、この道は最後には途絶えて消える。

 

当方は踏み跡が途絶えた少々先から植林帯の斜面を適当に下り、正規ルートに出たが、この正規ルートの起点は高度計高度540m(途中修正してないので誤差のある可能性あり)辺りの右カーブ部。

 

そこから左下を見ると、緑色の燃料タンクが放置された炭焼き窯跡が見えるのでそこに下りる。そこからのルートも途絶え途絶えの獣道程度だが、岸沿いの歩ける平坦な箇所は決まっているため、例え踏み跡が消えていてもルートは分かり易い。

 

やがて朽ちた丸太橋跡を過ぎ、左側の岩に赤い塗料で矢印マークが描かれた浅い切通し部を抜けると、ルートは岸沿いに設置された川床の伏せ石(自然石の階段)へと進むが、ここが前述の「渓流が勢いよくその上を流れているため、歩くことができず」と記した箇所(上の写真)。

 

足を濡らしても平気な者はそのまま進めばいいが、そうでない者は岸の岩盤の木の根等に掴まりながらへつって行く。

そこをクリアした先で対岸に渡渉する。ここからのルートも廃道同然だが、歩き易い所は分かる。

 

岸が歩けなくなると川床に下り、遡行が始まる。ルートは常に岸沿いにあり、支流の飛沫を足元に浴びながら川床の岩をよじ登って進む。しかし昔の人はよくこんなルートを作ったものである。

川床から一旦岸に上がる箇所もあるが、そこの支流にも無名の滝が懸かっている。上部は簾状になっていることから、「大簾の滝」(上の写真)と仮称したい。

 

途中で正規ルートは再び左岸(東岸)に移るのだが、渡渉地が分からなかったため、そのまま遡行して行った。

前方に衝立のような岩盤が見えると、鳴呼の滝が現れ、三段目の滝壺(上の写真)へと到るが、滝壺は想像とは異なり、小さい。それでも水は澄んで美しい。もう少し川幅が広ければ、以前紹介した姥ヶ淵のように、エメラルドグリーンになっていたことだろう。ここの高度計高度は590m

 

二段目の滝壺である鳴呼淵はここからでは窺うことができないが、一段から三段の滝は全て見通すことができる。合計の落差は1718mほどだと思うが、神聖な雰囲気や秘境感が漂っている。

 

尚、「鳴呼渕」の名称は昔、この滝壺がゴーゴーと音を立てて唸るように鳴っており、その音が何キロも離れた地まで聞こえていたため。「淵の鳴る日は必ず晴れる」と言われていたという。

 

山姥の滝はミストシャワーが眼鏡やカメラにかかるため、長居はできないが、ここの滝は涼しく気持ちがいいため、真夏日等はいつまでも離れたくない、と思うことだろう。

帰路は正規ルートである左岸の踏み跡を渡渉地まで辿るといいだろう。

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