二人の子どもは山道を歩いていきます。山道はなだらかで、道筋もはっきりしています。
歩くのに邪魔になるような物が落ちていたりする事もなく、でこぼこがあったりすべりやすかったりする事もありません。
道の両側には草が茂り、所々に花が咲いています。セルは思わず立ち止まって花に見とれてしまいました。
すかさずフィリアが振り返り、大きな声を出しました。
「またそんな所で見とれて」
セルは顔を上げて黙ってにこにこしています。
「どうしたの、そんなにうれしそうにして?」
今度は不思議そうに言いながら、フィリアが戻ってきました。
セルは足もとの花を指差しました。よく見ると、その花には小さなチョウが二頭、とまっていました。
「チョウなんかに見とれて。先行っちゃうよ」
「あ、うん」
セルはゆっくりと立ち上がり、フィリアの後について歩き始めました。
15分。
今までずっと日陰だった道が、いきなり開けて小高い丘のような場所に出ました。
「お花畑に着いちゃったじゃない」
フィリアが思わず口走ると、セルが今度は素早く反応しました。
「さっきみたいなチョウ、いるかな」
「あんたねえ、すっかりここに来た目的忘れてるでしょ」
「え、あ、まあ」
「まあ、じゃないわよ、まったく」
「うん」
「私たちは今はとにかく頂上を目指すんだから」
「わかった」
「ほんとに?」
「ほんと」
そうこうしているうちに、二頭のチョウがひらひらと二人の間を通り過ぎていきました。
セルはチョウを見送ると、遠ざかっていくカップルに手を振りました。
「こんど、ゆっくり遊ぼうね」
名残惜しそうにしているセルを尻目に、フィリアは先へと歩き始めました。
「さ、まだ先は長いんだから、さっさと行くからね」
「うん」
今度はセルも後を追いかけます。
二人は早足で頂上を目指します。
スポンサーサイト
theme : *自作小説*《SF,ファンタジー》
genre : 小説・文学