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 二人の子どもは山道を歩いていきます。山道はなだらかで、道筋もはっきりしています。
歩くのに邪魔になるような物が落ちていたりする事もなく、でこぼこがあったりすべりやすかったりする事もありません。
道の両側には草が茂り、所々に花が咲いています。セルは思わず立ち止まって花に見とれてしまいました。
すかさずフィリアが振り返り、大きな声を出しました。

「またそんな所で見とれて」

 セルは顔を上げて黙ってにこにこしています。

「どうしたの、そんなにうれしそうにして?」

 今度は不思議そうに言いながら、フィリアが戻ってきました。
セルは足もとの花を指差しました。よく見ると、その花には小さなチョウが二頭、とまっていました。

「チョウなんかに見とれて。先行っちゃうよ」
「あ、うん」

 セルはゆっくりと立ち上がり、フィリアの後について歩き始めました。
 15分。
 今までずっと日陰だった道が、いきなり開けて小高い丘のような場所に出ました。

「お花畑に着いちゃったじゃない」

 フィリアが思わず口走ると、セルが今度は素早く反応しました。

「さっきみたいなチョウ、いるかな」
「あんたねえ、すっかりここに来た目的忘れてるでしょ」
「え、あ、まあ」
「まあ、じゃないわよ、まったく」
「うん」
「私たちは今はとにかく頂上を目指すんだから」
「わかった」
「ほんとに?」
「ほんと」

 そうこうしているうちに、二頭のチョウがひらひらと二人の間を通り過ぎていきました。
セルはチョウを見送ると、遠ざかっていくカップルに手を振りました。

「こんど、ゆっくり遊ぼうね」

 名残惜しそうにしているセルを尻目に、フィリアは先へと歩き始めました。

「さ、まだ先は長いんだから、さっさと行くからね」
「うん」

 今度はセルも後を追いかけます。
 二人は早足で頂上を目指します。

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theme : *自作小説*《SF,ファンタジー》
genre : 小説・文学

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 土曜日の朝、2人は颯爽と指定された裏山に出かけていきました。

 裏山は彩雲洞の東の外れにあります。所有、および管理は彩雲洞という事になっていますが、世界政府との密約がある、という人もいて、何かと憶測や噂の絶えない「名所」のひとつでもあります。これ自体はそれほど高い山ではありませんが、中には色々と仕掛けや秘密があるらしく、見た目以上に登るのは大変で、大人でも頂上まで4時間ほどかかります。古来、歴代の修業者たちもここに色々な仕掛けを作って修行に励んだと言われていますが、その詳細な歴史は今では封印されていて、五術すべてを修得し終えた者に密かに伝えられるだけです。

 裏山には、一般の人にもハイキングコースが公開されていますが、仙術の結界が施され、術者の修行場に迷い込む事はありません。時代が進み、裏山にもシステム的管理がなされ、仙術の代わりに特殊な空間制御を施して同様の効果をあげているという噂がありますが、詳細は秘密とされ、一般にも全く知られていません。

 とはいえ、何も知らない人が入っても特に危険はなく、歩きつづければコースを終了するだけのものです。

 彩雲洞では小学生2人で山に入るといっても別に珍しい事ではありません。彩雲洞では年長者や指導者が年少者に課題を与えて周遊させる事もあります。敷地内には色々な仕掛けが用意されていて、コース設定する者が色々と条件設定を行なうと、それに適合した課題やトラップをランダムに
配置してくれる様になっています。


 裏山の入口前。

 「あと14秒で8時10分だ」
 セルが時計を見ながら言いました。
 「こっちはいつでもOKよ」
 フィリアがセルを振り返りながら言いました。
 「で、なんでフィリアの方が前にいるの?」
 セルが不満そうに言うと、フィリアが当然、という素振りで返します。
 「あなたが頼りないからに決まってるじゃない」

 8時10分になりました。
 セルは渋々フィリアについて行きました。

 「さ、入るからね」
 フィリアが言うと同時に一歩足を踏み入れると、木陰から鳥が数羽飛び立ちました。
 「わ、びっくりした」
 セルが思わず首をすくめながら言います。
 「ただの鳥だって」
 フィリアは余裕たっぷりです。

 数メートルも歩かないうちに、あたりはすっかり樹木に閉ざされてうす暗くなってしまいました。どうやらフェルトが設定した「仕掛け」が早くも動きだしている様です。二人はしばらくじっとしていました。静かにしていると、周囲から色々な音が聞こえてきました。風の音、その風に揺れる草や梢の先、沢山の種類の鳥の鳴き声、それどころか近くを流れる谷川の水音まで聞こえてきます。

 「ここ、こんなにいろいろな音、してたっけ?」
 フィリアはセルの顔をまじまじと見つめながら言いました。
 「い、いや、気付かなかったけど、、どんな音?」
 セルはちょっとどぎまぎしながら答えました。
 「もういい。これだからセルは。。。」

 フィリアは不機嫌そうにセルに背を向けて、閉ざされた空を見上げました。木漏れ日が差し込んで、所々がきらきらと光っていました。

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■三要十応■

 梅花心易(ばいかしんえき)にはいついかなる時でも「今この瞬間が占う時だ」と感じた時に卦を立てる(起卦する)事が出来る様にする為に「三要(さんよう)」「十応(じゅうおう)」という理論と手法が用意されています。これにより、占術の道具を持っていなくてもたちどころに卦を立ててその象意を伺い知ることができます。

 三要とは、梅花心易の起卦方法のひとつで、目、耳、心で感じ取る事です。通常の立卦では、筮して卦を立てたらその卦の象意を読んでいきますが、三要では占機において目で見た物、耳で聞いた音声、印象に残った物に注目し、その事物を象意とする卦を以って立卦するのです。立卦しようとした瞬間、空に鳥が飛んでいるのを見て「坎」、雲ひとつない晴天だったので「乾」といった類いです。

 十応とは、事物の分類の事で、日頃目にする色々な物事や様子を十種類のカテゴリに収めたものです。具体的には、天時之応、地理之応、人品之応、行為之応、方卦之応、生物之応、器物之応、言語之応、声色之応、文字之応の10種類です。それぞれ以下の様な内容になっていて、小成卦に置き換えて、体卦、全卦との相関関係を見て吉凶を判断します。

 その結果、三要で得た卦の判断とは正反対になる事もあります。反対に解釈するか否かは占者の力量次第です。

天時之応 起卦する時の天候、日時を卦とします。
地理之応 起卦する時の周辺環境(山があるとか一本松が見える、といった事)を観察します。
人品之応 起卦する時に会ったり見たりした人物を卦とします。
行為之応 起卦する時に人が何をしていたかを結果の吉凶に反映させます。
方卦之応 起卦する時に目にとめた物がある方向、移動元、移動先の方向を見て卦とします。
生物之応 起卦する時に見た動物や生き物を象意とする卦を観ます。
器物之応 起卦する時に見た器物を象意とする卦を観ます。
言語之応 起卦する時に見たり聞いたりした言葉から卦を得ます。
声色之応 起卦する時に聞いた言葉の調子から卦を得ます。
文字之応 起卦する時に見たり書いてもらった文字から卦を得ます。

 ここでいう「応」とは、占者が占って得た卦に「対応する」という意味で、例えば大学入試を占ってある卦を得ていたとすると、その卦による占断全体に対して吉凶の影響を及ぼす外部的な要因として「応」を位置づける事が出来ます。例えば、占断では試験対策は十分で、受ければ合格の可能性大だったと占断しても、十応で更に外部的事情を占って、試験場に行く途中に交通機関のトラブルに巻込まれる、という判断を下す、いった類いです。

 占者はこれを自在に使って常に占機に叶った卦を得なければなりません。心を乱したり未熟だったりすると、目には見えていても応が不適だったり、三要十応が正しくても結果として得た卦が不正だったり、卦を正しく立てても解釈が行き届かなかったりして、いずれの場合も的中する事は出来ません。
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 学舎に入った2人の子どもは、更に2階に駆け上がり、教室2-Aに駆け込みました。
丁度、その日の授業が全部終わったところで、生徒は皆いそいそと帰宅しようとするところでした。もっとも、帰宅といっても半分以上は彩雲洞敷地内の療に戻るだけですが。案の定、教室には数人の生徒が残っているだけでした。

 「フェルト、フェルト、いる?」

 絶え絶えになった息の下、男の子が声にならない叫びを上げて教室内をきょろきょろ見回しまします。すると、後ろの方の席にいた男子生徒がひとり立ち上がりました。

 「君はセル君だね」
 「は、はい」
 「フェルトに伝言を頼まれてね」
 「え?」
 「今日の今時分に、君が訪ねてくるからこれを渡してくれって」

 彼が差し出したのは小さな箱でした。
 教室の時計を見ると、まさにその時を示しています。

 「あ、どうもありがとうございます」
 「じゃ、確かに渡したよ」

 言うなりその生徒も教室を出ていきました。

 セルはなおも息をぜいぜい言わせながらじっと箱を見つめていると、先ほど一緒に走っていた女の子が飛び込んできました。

 「い、、、た、、、」

 女の子も苦しそうに言葉をもらしました。

 「あ、来た」

 セルがあっけらかんな答え方をすると、女の子がひと息深呼吸をしてから怒鳴りました。

 「何よ、いきなり走り出して!」
 「いや、急に思い出した事があって、ごめん」
 「何を思い出したの?」
 「今日、フェルトにひとつ技を教えてもらう事になってたんだ」
 「わざ?」
 「えへ。三要(さんよう)のちょっとしたコツをね」
 「あ、いいんだー」
 「だろー?」
 「で、フェルトは?」
 「それを今聞いてたんだ。出かけたって。この箱残して」
 「はこ?」

 男の子が差し出したのは、一辺が3センチ位のサイコロ状の箱。
 女の子はまじまじと見つめながら言いました。

 「これって、何か入ってるの? ちょっと貸して」

 彼女はセルから箱を取り上げると、耳に当てたり教室の窓から差し込む夕陽の光にかざしたりしていましたが、何も見つけることは出来ませんでした。

 「音がする訳でもないし、開きそうな所もない。。。いったいこれは、、」

 そこまで彼女がつぶやいたとき、箱の中から声が聞こえてきました。

 「やあ。セル。多分今君はぼくの教室でフィリアと一緒にこの声を聞いていることだろう」
 「うん。よくわかるね」

 思わずセルは返事をしてしまいました。

 「黙ってなさい」

 女の子、フィリアがセルを黙らせます。更に聞いていると、メッセージが続きました。

 「セルは今日の約束を突然思い出し、ここにかけつける。フィリアは後をおいかけて一緒に来てしまった。そんなとこかな。で、この箱を浮け取って、色々と調べてみるけどなんだかよくわからない。そこにこのメッセージが聞こえてくる。びっくりしただろう」
 「うん。びっくりした」
 「だから、ダマってなさいってば」
 「セルのことだから、このメッセージにいちいち返事をしてるだろうな。思い浮かぶようだ」
 「ちょっと。さっさと要件言いなさいよ!」

 茶化し半分のメッセージにさすがに我慢しきれなくなったのか、フィリアが声を荒げました。

 「おっと。そろそろフィリアに怒られそうだ。じゃ、要件を伝えよう。実は、ぼくは裏山のどこかにちょっとしたお宝を隠した。君たち2人にはそれを見つけてもらいたい。その際に三要十応の法が役に立つだろう。期限は2日。この週末の休みの間だ。成功を祈る」

 箱は静まり返ってしまいました。
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■五術■

 中国五術、とも単に五術ともいいますが、これは人間の幸せを実現するために整えられた、数々の体系化された知識と方術ことです。そのカテゴリが「命、卜、相、医、山」の5種類に分かれることから「五術」と呼ばれています。

命(めい)
 人や事物が持って生れた器とその歩むはずの航路について解き明かします。占術では命理学(子平)、紫微・斗数、占星術、生年月日による易や数秘術などがこれに相当します。

卜(ぼく)
 人が志しを目指して事を起こすとき、その行く末の是非や隠された可能性を解明します。占術では易、タロット占い、六壬神課、奇門遁甲、皇極経世などがこれに相当します。

相(そう)
 形ある物には必ずそうなった理由があります。相は形状や色などから秘められた真実を探り出します。占術では相学(観相、家相、墓相、印相、筆相)、地理、風水などがこれに相当します。

医(い)
 幸せは健全な心身から。健やかに生きるための知識と技術の集大成です。占術では命卜相を総合的に使いますが、専門分野としては中医(漢方医学)がこれに相当します。

山(さん)
 心身を鍛えて、逞しく生きていく原動力を養います。仙術、武術がこれに相当します。初期の修行では中国三大奇書や老子を読み精神修養につとめます。

 理想をいえば5種類すべてに習熟してこそどんな問題にも対応できるプロフェッショナルといえますが、本編ではどれかひとつでも占術家として公認する、という制度になっています。
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