複雑に絡み合うFOMC利上げと米金融機関の危機的状況

パウエル議長とイエレン財務長官

米国ではシリコンバレーバンク(SVB)、シグネチャー・バンク、シルバーゲート・バンクの3銀行が3月に次々と破綻。緊急の対応でイエレン米財務長官からは預金者保護の方針が示されました。

また、クレディスイスの経営悪化でUBSへの買収が決定。クレディスイスはいわゆる世界的にも大手銀行であり、もしUBSとの買収合意がなければ、大きな金融危機に見舞われていたと思われます。

そして迎えたFOMC、3/22未明に発表されたFOMCの利上げは0.25%。パウエル議長の会見内容と、同日にと翌日に行われたイエレン財務長官の議会証言をもとに振り返ります。

FOMCの決定

3/22未明に発表された利上げは0.25%でした。同時に発表されたドットチャートは24年末4%、25年末3%、その後2.5%と前回とほぼ変わらずです。GDPの予測に関しては23年にいったん縮小するものの、24年から回復見込み。失業率については徐々に上昇し、横ばい。PCEに関しては23年に3-4%台にしたいというFRBの狙いが見えます。下記画像はYouTubeライブ配信中の画像を撮影。

画像はクリックして拡大

現状のインフレを見ると総合インフレは緩和しているものの、コアインフレについては横ばいとなっておりパウエル議長の言っていた通り粘着性のインフレであることが証明された形です。

市場の期待

一方でシリコンバレー銀行始め金融業界には激震が走っている。

市場関係者の今回の焦点はまさにこの2点をFOMCメンバーがどう見ているかということだったと思います。

多くの市場参加者の予想は、今回の0.25%の利上げは見込みつつも、金融業界の安定化も踏まえて、利下げ時期への言及が何かあるのではないかとの期待だったと思います。

ドットチャート

ドットチャートから見えてくるのは、ずっと方針は何も変わっていないということです。若干のピークレートへの考え方に変化は出てきているものの、微々たるもので、FOMC/FRBからすればずっとアナウンスしてきた内容で「予定通り」。市場がなぜ信じないのか理解できないという感で受け止めています。つまりFFレートの利上げで国債は値下がりするとアナウンスしてきたも同然なので、SVBの国債購入での大きな損失には疑問とリスク管理の甘さが原因とFRBでは受け止めているでしょう。

そして今回のドットチャートから見えることは、他銀でも同じく国債で含み損を抱えているところは、厳しい経営状況が少なくとも年内は続くということです。

会見要旨

パウエル議長の会見要旨については、ロイター記事をご参照ください。訂正〔情報BOX〕パウエル米FRB議長の会見要旨

普段はコピペしますが著作権の問題もあるので、抜粋のみとさせてください。

この中で特に気になったのは下記のポイントです。

インフレに関して

インフレに関するFRBの見方に関しては前回とほぼ変更はありません。インフレ退治のコストより、現状のインフレを受け入れるコストの方が少ないという発言もありましたし、労働市場への警戒感、現状インフレは高すぎるとの見方など、FRBとしては物価と雇用の2大責務を果たすべく、雇用が非常に強い中、インフレに集中しているということかと思います。ここにブレは見えません。

  • インフレはなお高すぎる 
  • 労働市場はなお過度に引き締まっている
  • FOMC参加者の大部分、成長に下方リスクとの見解
  • インフレはわれわれの目標をはるかに超えている 
  • 最近のインフレ指標の強さは圧力の高止まりを示唆
  • FOMC参加者、年内の利下げは見込まず
  • 年内の利下げ実施はFRBの基調シナリオではない

金融不安に関して

米国ではシリコンバレーバンク(SVB)、シグネチャー・バンク、シルバーゲート・バンクの3銀行が3月に次々と破綻しました。イエレン米財務長官からは預金者保護の方針が示された。(FOMCの日の記者会見で覆されますが。。。)

また、クレディスイスの経営悪化でUBSへの買収が決定。クレディスイスはいわゆる世界的にも大手銀行であり、もしUBSとの買収合意がなければ、大きな金融危機に見舞われていたと思われる、危機的状況でした。

これらの危機を表面上乗り越え、今回のFOMCとなりましたが、パウエル議長以下FOMCメンバーは相当に神経を尖らせていたことが、利上げ中止を検討したなどの記者会見の内容からもうかがえました。

記者会見中のパウエル議長の説明から読み解くと、インフレ抑制と、金融不安に関しては両立させる必要があると考えているようです。また、金融不安に対する対応策については、金利とは別の手段で対応していく方針という事がわかります。つまり、銀行のキャッシュ不足を補うため、FRBからの貸出を増やし流動性を確保、取り付け騒ぎへつながらないよう、もしくは取り付け騒ぎになっても十分なキャッシュが確保できるよう対応するとの方針のようでした。実質この対応策が機能するかは疑問が残るところですが、市場への安心感を提供するという観点で、このような説明をされたと考えています。

  • 銀行システムを安全かつ健全に保つためにあらゆる手段を用いる用意がある
  • 全ての預金者の貯蓄は安全
  • 十分な流動性が確保されていることが示されている
  • このところの銀行を巡る動きは一段と厳格な信用状況をもたらし、経済とFRBの対応に影響が及ぶ
  • 今後のデータ、信用状況の引き締めの実際および予想される効果を注視していく
  • FOMCまでの数日間で銀行システム問題を考慮
  • 信用状況の引き締めの可能性は金融引き締めの取り組みが少なくなることを意味

また、今回の銀行破綻から各銀行は消費者、企業への貸出を縮小する可能性が高く、これが金融引き締め効果を生み、インフレ抑制に効果を発揮する可能性についても言及してしいます。実際に、FRBの利上げの狙いの一つがこれであり、インフレ抑制効果を生むのは間違いないと思います。

FOMCの裏で。。。イエレン財務長官 混乱編

イエレン財務長官は先に破綻したシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行に関しては全額預金者保護を打ち出し、事態の鎮静化を目指しました。しかし、23日、イエレン財務長官は米議会下院で証言し、2行への異例の措置について「銀行システムに対するリスクを軽減するためのものだった」と説明。あわせて、銀行が破綻した際に預金者を保護する預金保険について、現行で25万ドル(約3300万円)となっている上限の引き上げは「検討していない」と明らかにしました。イエレン財務長官はこれまでも預金保護について、対象を絞った取り組みをすると主張していました。

そして翌日の23日午後の議会公聴会で「預金保護のために追加的な措置を講じる用意がある」と述べ、前日の発言で大幅な株安を誘った内容を軌道修正しています。市場も安心感を得たことで、昨晩の米株市場は上昇しました。

この発言は市場に混乱を招きました。ただ、現時点でも今後銀行破綻発生した場合に「預金者の全額保護」は確約されていません。

安心するのは時期尚早

FRB側から見た利上げに関しては、いったん打ち止めもしくはもう1回の利上げという事だと思います。一方で、年内の利下げはベースロードではないと言明。これまでのFRBの方針と実行はすでにアナウンスされているものの通りで、そろそろ市場も信用すべき時期だと思われますが、CMEのFedWatchを見ると市場コンセンサスは23年7月からの利下げ見込みを織り込んだ状態です。

CEM FED Watch

今回の7月からの利下げ予測が多いことに関しては、これまでと異なる要因と考えています。今回のFRBの0.25%利上げの決定を受け、中小銀行の抱える米国債の含み損がさらに拡大したととらえられ、また年内の利下げはベースロードではないとのパウエル議長の発言から、銀行の信用不安は続く可能性が高いと思われます。これに伴って信用不安から預金者の大手金融機関への逃避が続くことで、7月に利下げをせざるを得ない状況になることを反映したものと思います。

同時に銀行の信用不安は、消費不安を与えインフレ抑制にも寄与すると考えられます。

また、大手銀行にとっても過剰な預金増加は、高金利下で貸出先が減っている状況の中、預金者への利払いが増額することを意味しており、利益圧縮につながります。

イエレン財務長官にとっては悩ましい問題で、預金者から不安を取り除き逃避行動をなくすことが安定化につながりますが、しかし預金者すべての全額保護を謳うのは銀行から規律的行動を奪いかねません。

今後の米国政府の動きは経済・株価・為替に大きな影響を与えるものとして、注目していきたいと思います。

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