宇宙混沌
Eyecatch

胸の内の焔 [1/6]

 まったく、気分の悪い仕事だったぞ。
 俺は脳裏に焼き付いた、恋に狂って自らの炎で燃え尽きた男の姿に辟易した。[ほむら]とか言う妖怪、とわ達の[かたき]らしかったが、最終的に人間の女を手籠めにしようとして自滅するなんて、小者にも程がある。
 あんな男にはなりたくない。その一方で、好きな女を己の好きなように弄びたい気持ちが、無いとは言わない。
「山向こうの町まで行ってくる」
 屍屋の奥の部屋でぼうっとしていた俺に、獣兵衛様が声をかけた。
「店番ですか? それとも送迎?」
 獣兵衛様の足で山を越えるなら、夜まで戻ってこれないが。
「いや、昨日何度も北の山まで飛んで疲れてるだろ。どうせもろはくらいしか来ないだろうから、来たら相手してやってくれ」
 と、いうことで獣兵衛様不在の休日だ。ならば、と俺はもろはに変化した。
 これが狸の良いところだ。好いた女を乱したい、甘い声で名を呼ばれたいと思ったら、自分で化けてしまえば良い。
「あ……」
 着物の下に手を入れて、自分で胸の先を[いじく]る。
 もろはは俺が初めて間近に見た女で、しかも滅茶苦茶可愛かった。俺を子狸と侮って無防備なところがまた良い。
 だからといって手籠めにするつもりも、ましてやちゃんと口説くつもりも無いけどな。
「…………」
 いや、暗い話は[]そう。とにかく、想像の世界では俺は自由だ。
 普段絶対に言わない甘い言葉を、俺がもろはに投げかける。もろははそれに頬を染めて、潤んだ瞳で俺を見つめて……。
「竹千代……」
 自分でもろはの声を真似て名を呼ぶ。本物のもろはは出さないような高い声で。
「竹千代……」
 そうそう、本物はこんな風に気取らない感じで……。
 そこまで思ったところで、俺は手を止めた。今のは、俺の喉から出た声じゃない。
「竹千代、何やってんの?」
「もろは……」
 開けた着物を慌てて掴み、床に転がったまま恐る恐る振り返る。
 そこには、怪訝な顔で首を傾げた、本物のもろはが立っていた。

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闇背負ってるイケメンに目が無い。

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