2021年11月20日土曜日

逃げる

 息を呑む会場を目の前にしたならば、消え去ることも容易であろう。ピーマンの空洞にいる私をどうか種明かししないでもらいたい。

自問

 煮えたぎる溶岩に一雫の涙を垂らす。涙は跡形もなく消え去り、何事も無かったかのように燃え盛る。ならばこの右腕を沈めてくれようか。融解する右腕を見送れば歪んだ景色を元に戻すことができるのではないか。いや、そんなことはない。そんなことはないんだ。

手当

 穴を見た。生きているのも不思議なくらいだ。血を見た。こんな量の血は初めてだ。よくもまぁ小さな体に詰め込んだもんだ。だけど、不思議と痛くない。辛くもない。むしろ心地いいくらいだ。人の手はこんなにも人を救うのだな。ありがとうその手を差し向けた君へ。

悲涙

存在していることが当たり前だった。そこには嘘のつきようもない。例えるならば背骨。ある日、突然失ったらどうすればいい。どうすることもできなさいさ。軟体動物になった私は、ただ食べやすい魚として食卓に並ぶことしかできないだろうよ。

2021年11月14日日曜日

青い草

信号は青なのに

人は渡っているのに

足が動かない

どうして前に進むのか

果たして前が前なのか

アスファルトが敷き詰められた道には

道草も咲くことがないのか


かげもの

 影踏みを覚えた幼子のように我を忘れてひたすらに影を追う。

線路際に落ちている影は人混みに揉まれて薄汚れてしまう。

空に舞う影はひらひらと漂うが透き通っていてもうじきただの空気となり果てるだろう。

海に流れた影は波に揺られてくらげになる。

街を歩けば不意に現れる影の正体は鳥。

影を追って影に縛られる私は影になり果てた。

ただそこにあって、ここにはいない。


2021年11月8日月曜日


同じ顔で同じ髪型して挙句の果てに布で半分隠してもう誰が誰だか分からないねそうなるともは中身で見分けるしかないんだけど、案外人の中身てそんなに種類ないよね。人の性格なんて片手で数えられるほどしかないと思うわ。じゃあ人ってなにさ。それは動く壁みたいなもんだね障害物にしかならないなんて言ったら正義感にドヤされるだろうか。正義感なんてものは各々持ちあわているもので、統一された概念はない。だのに皆一様に自分の正義が正しいものだと思ってる滑稽だ。これを障害物と言わずなんと言う。

逃げる

  息を呑む会場を目の前にしたならば、消え去ることも容易であろう。ピーマンの空洞にいる私をどうか種明かししないでもらいたい。