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2021年7月31日土曜日

【物理】力のモーメントって物体の長さの方を成分分解してもいいんじゃね?

図1 力のモーメント

「床の上に長さLの棒がある。棒のO端が支点となるように他端を鉛直上方向に力Fを加え、図1のような状態になった。
このときO端まわりの力Fによる力のモーメントはいくらになるか。棒の太さは考慮しないものとする。」という問題について考えます。


 よくある解法としては、力のベクトルを棒の方向に平行な成分と垂直な成分に分解する方法になるかと思います。
図2 力Fの分解

棒に垂直な力の大きさはFsin60°になるので、力FによるO端まわりの力のモーメントはFLsin60°となります。この方法を解法Aとします。

 ここで、力の方ではなく棒の長さをベクトルのように成分分解しても同じように求められるのでは?と考えたことがあるかもしれません。
図3 床面に棒を投影

実際、Oから棒と平行な方向を持ち大きさLのベクトルを考えた時、鉛直方向に床面に棒を投影(正射影)したときの長さはLcos30°となります。したがって、力FによるO端まわりの力のモーメントはFLcos30°となります。cos30°=sin60°なので、先ほどの答えと同じになります。この方法を解法Bとします。

 このように、問題なく力のモーメントが求められるのですが、解法Bには注意すべき点があります。
図4 力のモーメント2

それを知るために、次は上記の問題の力Fが反時計回りに60°傾いていた場合の力のモーメントを考えてみます。

解法A

図5 力Fの分解2

力Fを成分分解する方法であれば、棒に垂直な力はFcos30°となり、力FによるO端まわりの力のモーメントはFLcos30°となります。

解法B

 では、棒を床面に正射影した場合を考えます。
図6 力Fの分解と床面に棒を投影

正射影した棒の長さは先ほどと同じLcos30°ですが、力の向きが鉛直上向きではないので力Fの鉛直成分を求めます。力Fは鉛直方向から60°回転しているので、鉛直成分はFcos60°となります。
したがって、力FによるO端まわりの力のモーメントはFLcos30°cos60°となるのですが、先ほどと答えが違います。cos60°がついているためより小さくなってしまっています。


 これはなぜかを知るには、力のモーメントがどのように定義されているのかを振り返る必要があります。

力のモーメントとは、ある点(記事中ではO端)と作用線(記事中では力の始点を通り、力と平行な線)の距離と力の大きさの積で表されます。

図7 必要な成分をすべて書き出す

 ここで先ほどの問題点に戻ります。力Fを成分分解しましたが、まだ力Fの水平成分Fsin60°が出てきていません。そしてその力Fの水平成分Fsin60°の作用線とO端との距離は、ちょうど床に垂直な壁に棒を投影したときの正射影の長さLsin30°に等しいです。この2つから求められる力のモーメントを考えていなかったことが、計算が合わない原因です。

なので、力の成分すべてを使って力のモーメントを求めます。力Fcos60°によるO端まわりの力のモーメントは図6のところで求めたFLcos30°cos60°、力Fsin60°によるO端まわりの力のモーメントはFLsin30°sin60°となります。どちらも反時計回りなので求める力のモーメントは、

2倍角の公式を使って上のようになり、図5の方法で求めたFLcos30°と同じ結果を導くことができました。

 上記のことから解法Bの注意点は水平成分、鉛直成分に分解することにこだわりすぎると、計算が複雑化することがあるということです。

一方で解法Aがシンプルなのは、力FをO端を通る作用線とそれに直交する作用線方向に分解しているからです。前者は距離が0になるので力のモーメントの大きさも0になり、後者の力のモーメントのみを考えれば良いのです。

 解法Bは複雑化することがあると書きましたが、複雑化させない方法もあります。力のモーメントの定義に従い、力Fの作用線とO端の距離を求める方法です。
図8 力のモーメントの定義に従った解法

図8のように線を引くことで力Fの作用線とO端の距離はLcos30°であることが求められます。したがって、力FによるO端まわりの力のモーメントはFLcos30°と求めることができます。

このように、力Fの作用線とO端の距離を求めることができれば、シンプルに力のモーメントの大きさを計算することができます。