【中短編】一匹狼と森の熊 : 閑人書房

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【中短編】一匹狼と森の熊

2020年9月19日 

優しくて臆病な熊さんと、気ままで逞しい狼さんの、やさしい出会いの物語


作品名一匹狼と森の熊
作者雨咲はな
文字数約3万5000字
所要時間約1時間10分
ジャンル恋愛(現代)
作品リンク小説家になろう

レビュー

「ははあ、外見は熊なのに、中身は子猫ちゃん、ってやつですね」「……大神さん、そういうことは普通、心の中だけで思うものですよ」


高校を卒業してからずっと、バイトをかけもちして家族三人の生活を支えてきた大神さん。そんな彼女の新しいバイト先は、とある会社の倉庫管理のお手伝い。
初日にひとりで職場にやって来た大神さんを出迎えた倉庫主任の冴木さんは、がっしりとした長身に顔中もじゃもじゃの髭に覆われた、熊みたいな男の人だった。

人に頼ることなく逞しく生きてきた、ちょっと能天気で直情径行な大神さんと、人を傷つけることが怖くて内に篭もりがちの、優しくて臆病な冴木さん。
あまり他人と深く関わることなく生きてきたふたりだけれど、狼さんが気になってそろそろと森から顔を出す熊さんと、それが気になってついつい見守ってしまう狼さんの、ちょっとずつ心と心で寄り添っていくような関係性に、ぽかぽかと心があたたかくなる。

忙しい日々のふとした余白の時間、一息ついて「ああ幸せだな」って言ってみたくなるような、幸福な陽だまりを見つける物語。

・初対面からふつうに熊よばわりする大神さんと、律儀に「人間です」って訂正いれる冴木さん。「普通に失礼なんですけど」(笑)

・もじもじぐずぐずする熊さんと、ちゃきちゃき行きたい狼さん。

・大神さんのバイトスケジュールがやばい…しんじゃう…やばい…。というか、最初に「えっ」って思ってから数日間ずっと考えてたのか、冴木さん。大したことじゃないのに、踏み込むのにものすごく時間がかかるんだなぁ。

・真面目にお説教モードに入る熊さんと、トンカツしか見えてない狼さん。この温度差(笑)

・大神さんの、あっけらかんとして気ままだけど愛情深いところ、好きだなぁ。家族を支えてずっと働きづめで、それをごく当たり前に、私はやりたいようにやってるんですよってケロッと言える感じが。一匹狼ってか子連れ狼…?(笑)

・大神さんは思ったことがそのまま口に出るタイプなのかと思ってたけど、ムカついたときは普通に黙ってる方だな。面倒は避ける…っていうか、単純に時間の使い方がものすごくシビアなんだろうな。ただし口には出さなくても手が出ることはある(笑)

・いつも雑に聞き流してるくせに、なんだかんだ熊さんのお説教が大好きな狼さん。(ただし内容を聞いてるとは言ってない)

・コンビニスイーツで大はしゃぎする狼さん。あーこのへんはイヌ科っぽい…っていうか、めちゃめちゃかわいいな!?

・「天気が良くて、仕事もあるし、弁当もあって、おまけにスイーツ食べ放題なんて、生きてるって素晴らしい。ああー、幸せですねえー」←すき

・「ハゲデブのオッサン」に最後に言いたいこと言う大神さんと、パチパチ拍手してくれる女性社員たち。このシーン好き(笑)

・大神さんもあんまり人のこと言えないなぁ。自分のことを理解したがってくれてる相手に対して、言い訳すらしないのは寂しいよ。

・大神さんと弟くんの電話のシーン、短いけどものすごく思いやりに溢れてて良い…。弟くん、絶対いい子だわってこのやり取りだけで分かる…。じわっとくる。

・会社ときっちり交渉して、正式な手順で、働いた分の正当な報酬をもぎ取って来てくれた冴木さん。これは泣いてしまう。

・拳どんでテーブル壊して上司をビビらせまくる熊さん。きょ、脅迫だー! あっはっはって狼さんのあっけらかんとした笑い方すき。

・お互いにあたたかいものを分け合って、一緒にのんびり過ごす熊さんと狼さん。不安でたまらなかった「何もしない時間」が「幸せだなぁ」になってるところ、ものすごく好き。

・「その後」の話、めちゃくちゃ良かった…。いまいち恋人同士っぽくないふたりを心配する弟くんも、しんどいことに熊さんを巻き込む気は一切ない狼さんも、いつも通りにっこり笑いながら静かに怒ってる熊さんも、愛情とときめきに溢れている。



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