アラウンド・チャイナ

ガイドブックにはあまり載らないニッチな中国旅行指南

太湖に行くなら西山へ②〜洞天福地・林屋洞で仙人と出会う!〜

f:id:morientes-jp:20191019225446j:plain

十大洞天のひとつ林屋洞

 日本人の多くは無神論者であり、かつ世界的には仏教国のひとつと見られているが、その思想の根底には、儒教の影響が大きいように思う。年長者に敬語を使うこと、学校の先輩・後輩関係、電車でお年寄りに席を譲ること、これら全て儒教の影響だ。実際、学校で教えられる「道徳」の内容は、まんま「論語」の世界といっても過言ではない。

 では、中国はといえばどうだろう。中国は儒教発祥の地であるが、実際、儒教的精神は文化大革命時に徹底的に破壊された(中国では子供や赤子連れの親には席を譲るが、老人に譲る光景はあまり目にしない)。仏教信仰も盛んだが、中国人の思想には、僕から見ると道教の影響が多いように思う。道教というと、とっても怪しさ全開だが、やはり不老不死、現世利益の追求など、人間の欲求にとっても素直な部分が胡散臭さを引き立たせている感がある(本来、宗教とは禁欲を訴えるものであるから、道教という宗教のくせに、宗教観の真逆の立ち位置にあることが、より胡散臭さを演出している感がある)。正月に「恭喜發財」と叫び、元寶を飾り(もしくは元宝の形に似せた餃子を食い)、爆竹を鳴らすのは、全て道教の影響があるのだ。

 なぜ、こんな話から始めたかと言えば、太湖に浮かぶ西山もまた、道教の強い影響にあるからだ。洞天福地(dòng tiān fú dì:ドンティエンフーディー)という言葉がある。洞天は仙人が住む場所、福地は仙人になるための道士の修行の場で、中国全土に十大洞天、三十六小洞天、七十二福地が定めらているのだ。中でも最も重要なのは当然、十大洞天で仙境とも言える場所であるのだが、この十大洞天のひとつが、なんと西山にあるのだ。その洞天を林屋洞(lín wū dòng:リンウードン)という。

 今でこそ太湖大橋が完成し、簡単にアクセスできるようになったが、無論、西山は島であるがゆえに、昔は近寄りがたい印象があったかと思われる。さらに西山は中国全土に名高い太湖石の産出地であり、それこそ中国中の金持ちがこぞって西山産の太湖石を買い求めた。そうした背景が、西山をより神聖化させたのであろう(考えてみたら、一種の錬金術のようなものだ)。さらに「洞天」というくらいだから、仙境は洞窟でなくてはならないが、太湖石を産出する土地ゆえに岩石は主に石灰岩であり、鍾乳洞が形成されやすい環境であった。こうした複数の理由から、西山は古くから道教の聖地として崇められていたのだと考えられる。

 さて、話は重複するが、太湖大橋のおかげで仙境には手軽にアクセスできるようになった。実は筆者もこれまで少なくとも三度は仙境に足を踏み入れている。ということで、皆さんにも仙境がいかなる場所かを紹介してみたいと思う。

 林屋洞は西山を貫くメインストリートから一本だけ外れた道すがらにある。洞窟の前には駐車場が設置され、まわりに名物の碧螺春(蘇州名産の緑茶)や枇杷を始めとする果物、太湖産の魚やカニを売る物産店や農家菜と呼ばれる田舎料理が味わえるレストランが軒を連ね、賑わいを見せる。とても仙人が住む佇まいとは思えない。

f:id:morientes-jp:20191022214725j:plain

林屋洞の入り口。仏教風の黄色い壁の建物がお出迎え

f:id:morientes-jp:20191022215233j:plain

入り口にあった龍のレリーフ。龍は道教のシンボル的存在

f:id:morientes-jp:20191022215435j:plain

中に入ると蘇州式庭園がお出迎え。ここまで雰囲気は台無し

 さて、チケットを買い求め、中に入り、庭園らしき場所を歩いていくと、洞窟の入り口が顔を覗かせる。とても雰囲気のある入り口だ。洞窟の入り口に近づくと、ガラッと空気感が変わる。なんとなく、昔の人が、洞窟を神聖視した理由がわかる気がする。

f:id:morientes-jp:20191022215851j:plain

洞窟入り口側に彫られた「天下第九洞天」の文字

f:id:morientes-jp:20191022220056j:plain

洞窟の入り口。急に「仙人住んでる感」を醸し出すから不思議

 洞窟に入ると最初に待ち受けているのは水。洞窟内は地下水が染み出しているのだ。こうした地下水の影響で、石灰岩が鍾乳洞を形成し、足音は洞窟と水の音に反響し、奥へ奥へと響き渡る。こうした洞窟内の環境が別世界観を演出する。

f:id:morientes-jp:20191022220451j:plain

地下水が行く手を阻む。昔は水の中を進まなければ中には入れなかったと思われる

f:id:morientes-jp:20191022220551j:plain

池を進むと洞窟の奥に誘われる。どこか神秘的な雰囲気

f:id:morientes-jp:20191022220642j:plain

洞窟内は水があるためか、とても複雑な構造

f:id:morientes-jp:20191022220751j:plain

長年にわたり削り取られた石柱が天井を支える。自然の作品に敬服する

f:id:morientes-jp:20191022220912j:plain

中国のライティングはひどいが、幻想的に感じるのは洞窟の持つポテンシャルだ

 中国の洞窟というのは、例外なく、カラフルなライティングを施し、そのやりすぎた演出が雰囲気をぶち壊していることがよくあるが、林屋洞ではなぜかそれほど気にならない。色の種類が少ないというのがあるが、それよりも洞窟の持つポテンシャルが、ライティングを凌駕しているというのが一番の理由だ。ともかく、この洞窟は非常に複雑で、かつ人の入れないような狭いスペースが数多く存在する。そうした洞窟の作りが神聖さを際立たせ、仙人伝説を誕生させたのであろう。
 先に書いたが、3度も足を運んだのは、この洞窟に言い知れぬ魅力を抱いたからだ。なお、もうひとつ嬉しいのは、非常に涼しいこと。夏の炎天下で観光するに、ぴったりのスポットだったりする。

 

 <DATA>

林屋洞

交通:蘇州駅南広場バスターミナルよりバス快線11号で梅園下車、徒歩約2分(110m)

料金:50元

時間:8:00-16:30

goo.gl


<今日の中国語>

恭喜发财(gōng xǐ fā cái)ゴンシーファーツァイ:旧正月の定番挨拶。直訳すると「財を成せると嬉しい」つまり「金持ちになりますように」の意味。これを言い合っているのは、意味がわかると気持ち悪い

元宝(yuán bǎo)ユェンバオ:正月飾りに使われる昔の金塊(お金)。北では正月に水餃子を食べるが、そもそも餃子は元宝の形を真似たとされる

鞭炮(biān pào)ビェンパオ:爆竹

 

 

 ↓ ランキングに参加してます。よろしければクリックを 

にほんブログ村 旅行ブログへ