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洋画 巨匠の映画評

【巨匠のレビュー】『ザ・レポート』/原爆についての反省レポートを作ってほしいぜ

更新日:

レビュー平均がほぼ満点

Amazonプライム・ビデオをザッピングしてたら、レビューの平均がほぼ5つ星(12月9日時点)の『ザ・レポート』という何だか聞き慣れない映画がある。調べてみると11月15日に全米公開されたばかりの作品で、日本では劇場公開がなくAmazonプライム・ビデオのみの配信ということで、これはもう新作扱いで編集者のあんちゃんも文句は言ってこないだろうと軽い気持ちで見てみたら、これがもううんざりするくらいの疲れる映画で、おまけに見終えた後には日本人として怒りが込み上げてくるような始末なんだ。

疲れると言うのは難解な映画に対峙した時のそれじゃなくて単純に台詞を咀嚼することへの疲れでさ、米国の三権の仕組みや機関名に人名、それに政治的な状況をある程度認識していないとなかなか話をスムーズに追うことができなくて、それで苦労したのよ。

ネット配信のみという慧眼

この映画は9.11以降にテロの容疑者に拷問的な尋問をしたCIAの「強化尋問プログラム」についての実話物で、事件のあらましを押さえている米国人はすんなりと物語に入れるんだろうけど、オイラは日本人である上に字数制限があって意訳になりがちな字幕で見ている分行間も読まなくちゃならないから、フラッシュ暗算をしているチビッ子のように画面と睨めっこをするんだけど、着信通知があったスマホに少しでも目を落としては筋を見失って、何度も巻き返しては固有名詞や流れを確認する羽目になったぜ。

だったら吹替で見ろと言われそうだけど、どうもオイラは吹替じゃ臨場感を覚えないし、吹替は吹替で小難しい台詞を耳だけで理解しなきゃいけないから却ってそっちの方がより疲れたかも知んないよ。どっちにしろリプレイ機能がないと日本人では話の細部にまで入っていけないし、これが劇場公開なら特に集中力のない若いヤツらが途中退席でもして誹謗中傷をネットに撒き散らしていた可能性だってあったから、日本ではネット配信に絞ったのは配給側の慧眼だったと言えるね。

映画の素材としては…

ただいくら巻き戻しがし放題だからと言って満点レビューの殺到はご祝儀が過ぎるよ。こういった硬派で地味な政治劇はやけに採点が甘くなる傾向があるけど、その評価ってのは凡そ映画自体に向けられたものじゃなく、そこに描かれた事件そのものに対してってのが本当の所じゃないの。この映画で言えばCIAの拷問プログラムを調べ上げて、それを公にしようとした主人公のダニエル・J・ジョーンズという人物の正義漢ぶりに向けられたものであって、その鑑賞後の畏敬にも似た感慨が鑑賞途中の不満を覆い隠してしまったようにも見受けられる。

高評価をつけた連中も鑑賞中はそれこそ“レポート”を読むように映像というよりはただ話の筋を字で追っているような気分で、本当の意味での映画鑑賞に没頭できた人間はいなかったと思うよ。隠蔽されたCIAの悪行をつまびらかにするための報告書までも公にすることを躊躇った“人権国家”米国の欺瞞や暗部を映画として昇華させた意義はあるんだろうけど、事件の全貌そのものが映画という媒体の素材足り得たかは疑問だね。端的に言えば、絵があまり動くような事件じゃないのよ。

事の顛末が結局、文書の作成やそれに対する扱いであって、主人公のダン(ダニエル)の行動範囲もほぼ建物内に終始しているから、何だか下手したら一般企業の不正隠しのようなスケールにも見えてきちゃう。何かあっても全部、室内での言葉のやり取り。絵的にアクセントとなる拷問のフラッシュバックのシーンだって、よく考えればこれも建物内だもんね。

CIAのレポート作成妨害という大きな動きや対立が生まれた後半でも、やってることはダンの職場に強行突入しては「提供していない文書をハッキングしただろ」なんてイチャモンをつける何だかバカみたいな大味なやり方で、政治スリラーという割には狡猾な駆け引きもなく、最後はありがちな後日談をクレジットで見せて終わりというのはどうも歯応えがない。

生活感のない主人公の是非

同じく政治的なスキャンダルを扱った『大統領の陰謀』のウォーターゲート事件なんか盗聴器を付けるためにビルに侵入したり、事実そのものが体育会系的要素を含んだスパイ小説顔負けの展開だったけど、この映画が扱ったスキャンダルは文化系的な全編室内でのいざこざだからね。

そう話の起伏がないためにあれもこれもと細かな出来事を描写して経過を見せようとするから、2時間では尺が詰まってその分、人物描写がなおざりになってしまってる。だから個々のシーンが薄く感じて、主人公のダンでさえどんな人物なのかの描写が乏しいから生活感が全くなく、なぜそこまで義心に溢れた人間なのかがよく掴めない。

それは意図された演出で無機的に彼を描くことで事件そのものに焦点を合わすことが狙いだったのかも知れないけど、尺もないし実在の人物だからいいかって感じで、なんだか事実にあぐらをかいているだけのようにも映ったね。オイラは環境映画でもない限り映画は人を描くものだと思っているからさ、何かの事件を扱うにしてもそれと交錯するように人間を描いてくれないと物足りなく感じちゃう。

ナチス発言に巨匠が怒り

それに何よりオイラが気に入らなかったのは、終盤にこのCIAの拷問レポートを公表するか否かの議員の会合みたいなのがあって、そこである議員が「これを公表しないと我々はナチスになる」だなんてきれいごとをほざいていた件だね。おいおい、ナチスを引き合いに出すのはそこじゃないでしょって。日本に原爆を2つ落として既にナチスと比肩できるようなことをやっちゃってんだから、それを差し置いて拷問如きに今さら「ナチスになる」だとか言われてもさ、日本人からしてみれば「もうナチスなんだよバカヤロ!」って頭に来るよ。

全く米国人の国家意思として犯したジェノサイドという本当の汚点についての認識には唖然とさせられるし、そう考えればこの映画で描かれたCIAの異教徒に対する所業もうまく合点が付くよ。というわけで拷問についてのレポートもいいけど、日本人としてはそろそろ原爆についての反省レポートも拝みたいもんだね。

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