滝尾神社への道~紅葉の日光遠征記2018(その2)~

滝尾神社への道~紅葉の日光遠征記2018(その2)~

「紅葉の日光遠征記」第二回目の今回は、少し地味ながらも奥深い「滝尾神社(たきのおじんじゃ)」に通じる古道「滝尾道」をご紹介したいと思います。
現在、日光を代表する「権現様」と云えば、神君・徳川家康公をお祀りした日光東照宮ということになりますが、日光東照宮が創立されたのは元和三年(1617年)、約400年前のことです。しかし、嘉祥三年(850年)に新宮(今の二荒山神社・本社)が創立されて以降の800年弱の間は、「権現様」と云えば「日光三社権現(新宮権現・本宮権現・滝尾権現)」でした。中でも滝尾権現(現在の「滝尾神社」)付近は、日光参詣の中心地として栄え、室町時代後期の連歌師・宗長によれば五百を数える僧坊があったとのことです。

滝尾神社(「瀧尾神社」と表記)の場所はこのあたりです。東照宮のずっと北の方にあり、日光二社一寺(東照宮・二荒山神社・輪王寺)の入口にあたる神橋(しんきょう)からは、写真を取りながら歩くと最短ルートでも1時間ほどかかります。

神橋より滝尾道入口まで

まずは「神橋」の横にある「日光橋」を渡ります。この裏山の紅葉は、まさに日光の表玄関を飾るにふさわしい美しさです。

滝尾道入口までのルートは、大きく3つありますが、①②については、次回以降にご紹介する内容と被ることが多いので、今回は③「自然環境優先ルート」を辿ってみます。

①輪王寺東照宮ルート 輪王寺・日光東照宮を先にお参りしてから向かうオーソドックスなルート
②本宮参道直進ルート 本宮神社・四本龍寺といった「東照宮」以前の旧・日光を味わいながら進む最短ルート
③自然環境優先ルート 外山(とやま)を遠望しつつ紅葉を楽しみながら稲荷川沿いに進むルート

「日光橋」を渡り、右に曲がって道なりに進むと「小杉放菴記念日光美術館」が右手に見えます。

更に先に進んで、突当りの二又路を右に進み、稲荷川橋の手前で左折し稲荷川沿いに遡る林道に入っていきます。この道は自動車が通行でき、開山堂付近から先は旧・滝尾道と並行して滝尾神社参道の手前にある滝尾高徳水神社境内まで乗り入れることができます。林道入口に航空写真を利用した案内板があります(すすきの穂が邪魔してごめんなさい)。

林道入り口左手には「鈴屋」という食堂があります。

稲荷川を遡りながら道沿いの紅葉が楽しめます。

右手の稲荷川の対岸には、「外山(とやま)」が遠望できます。写真では解りにくいですが、頂上には輪王寺「外山毘沙門天堂」があります。

林道入り口から10分ほど歩くと輪王寺「開山堂」と「観音堂」が見えてきます。神仏習合の名残で「観音堂」の前には、鳥居が建っています。庶民的感覚としては神も仏も分けて考える必要は全くないのですが、明治以降のこの国は、宗教を西洋的偏狭の枠で捉え、寛容を持って人々に受け入れられてきた日本的な神仏の在り様を破壊してきました。現在の日光の姿には、その「禍根」が凝縮された典型を見る思いがします。

開山堂付近

「観音堂」には将棋の「香車」駒がたくさん奉納されています。出産を控えた妊婦が奉納された「香車」を借りて帰り神棚に祀ると「香車」のように真っ直ぐスムーズに出産できるというご利益があり、「香車」を借りた妊婦は出産後また新しい「香車」を加えて返納するという習わしになっています(なので増える一方です!!)。こうしたことから「産の宮」「香車堂」「将棋っ駒」とも呼ばれています。

「観音堂」に向かって左側には「陰陽石」がありますので、こちらにも安産を祈願します。男女を象徴するという陽石と陰石の二つがあるのですが、どっちがどっちなのか???

「開山堂」は、日光を開いた勝道上人をお祀りしており、堂内には4.5mもある大きな地蔵菩薩像、勝道上人と十大弟子の木像が安置されています。案内板には「開光堂」の額が掲げられているとありますが、建物の外壁には見られませんので、おそらく堂内に掲げられているものと思われます。

「開山堂」の裏手には、勝道上人の御墓があります。

となりの玉垣内にはお弟子さんたちの御墓が仲良く並んでいます。

奥の崖は「仏岩」と呼ばれており、昔は仏の姿をした岩があったらしいのですが崩れてしまい、今は崖の下の岩窟に梵天、帝釈天、四天王のうち三体、不動明王の計六体の石像が並んでいます。四天王のうちもう一体があるはずの場所は空席となっています。

滝尾道の入口に少し進むと、右手に法華経典と般若経経典の供養塔が建っています。何か謂れがありそうですが・・・。

滝尾道

開山堂から、稲荷川上流の方向に目を向けると古い石畳が続きますが、これが滝尾道です。

左脇に「滝尾道」の道標が建っています。

その先もずっと丸くすり減った石畳が続きます。

暫く行くと左手に「北野神社」の背の低い石の鳥居が見えます。

脇には「北野神社」の石碑が建っています。

奥には石の祠があり、菅原道真公が祀られています。一般に菅原道真公を祀る神社は「天満宮」を名乗ることが多いのですが、「北野神社」を名乗るのは、京都・北野天満宮より天神様を勧請したためと思われます。こちらのご朱印は、日光二荒山神社・本社で頂けます。

北野神社の少し先に「手掛石」があります。滝尾神社のご祭神「田心姫命(たごりひめのみこと)=滝尾権現」が、お手を掛けたため、この名が付いたと伝えられています。この石に手を掛けて祈願すると、字が上手になると云われています。

石畳は、まだまだ続きます。

右手に「神馬の碑」が見えてきます。徳川家康公が関ヶ原の合戦のおり騎乗した名馬で、後に東照宮の神馬として奉仕した「白石」の碑です。なお名前は「白」ですが黒毛だったそうです。

次第に、美しい紅葉が目立ち始め、石段の箇所も増えてきました。

この付近を歩いた時のショート動画です。

室町時代に日光山第四十四世貫主・昌源が植えた多くの杉の中の一本で「昌源杉」と呼ばれています。

「白糸の滝」が見えると「滝尾神社」は、もうすぐです。

白糸の滝のショート動画です。

滝尾神社

滝尾神社下の石段が見えてきました。

石畳には、沢山の黄葉がその溝を埋めるように舞い落ちていました。

右手に「別所跡」があります。明治の廃仏毀釈で修験道が禁止されてからは、このように人の住まない場所になってしまいましたが、このあたりはもともと日光修験道の中心地で、室町時代には本地堂、千手堂、根本日満の社など五百を超える僧坊があって大変栄えていました。有名な輪王寺の「強飯式」もここが発祥の地とされています。

◆強飯式◆
輪王寺で毎年4月2日に開催される中世の修験道の流れを汲む儀式で、六名の「強飯頂戴人(ごうはんちょうだいにん)」が、山伏装束を纏った行者に強要されるなか大酒を飲み、山盛りのご飯を食べれば「七難即滅・七福即生」が約束されると云うものです。別名「日光責め」といいますが、ギャル曽根さんあたりだと都合がよすぎる???

奥に盛り上がって見えるのが「影向石(ようごうせき)」です。弘法大師がこの石のあたりで神霊の降下を祈願したところ「田心姫命(たごりひめのみこと)=滝尾権現」が現れたとの言い伝えがある神聖な場所です。弘法大師は、この示現をもって滝尾神社を創建し「田心姫命=滝尾権現」をお祀りしました。

鳥居の向こうに「滝尾神社」の楼門が見えてきました。なお、この鳥居は「運試しの鳥居」と呼ばれ、「貫」と「笠木」の間の「額束」には丸い穴が空いており、石を三個投げて、一つでもその中をうまく通れば願いがかなうということです。私も試しましたが、ひとつも通りませんでした・・・。

紅葉に埋もれるように建つ楼門です。ここには「女体中宮門」と書した額が掲げられ、両脇には仁王様も安置されていましたが、明治の廃仏毀釈の際に取り払われてしまいました。仁王様のいらっしゃらない楼門はちょっとさびしく映ります。

続いて拝殿です。

拝殿の裏には、東照宮or大猷院っぽい黒塗りの唐門があり、楼門共々江戸時代に付け加えられた仏教的な要素が見て取れます。

唐門の先に玉垣に囲まれた御本殿があります。御本殿の裏側には女峰山を遥拝できるように扉が付けられている少し変わった造りになっています。

拝殿手前右にある小さな石造りの橋は重要文化財「無念橋」です。三本杉を通して女峰山を遥拝する前に、俗世間との縁を断ち切るという意味で名付けられたようです。この橋を自分の歳と同じ歩数で渡ると女峰山頂の奥宮まで登ったのと同じご利益があるとされてきました。

滝尾神社のご神木とされている三本杉で、この方向に女峰山があり遥拝できます。現在の三本杉は二代目で、初代は江戸時代に夫々倒れてしまいましたが、今でもそのまま横たわったままだそうです。

御本殿の左脇にある御社は「滝尾稲荷神社」で、弘法大師が「滝尾神社」と同時に創建なさいました。こちらのご朱印は、日光二荒山神社・本社で頂けます。

「滝尾稲荷神社」脇の小道を少し下ると日光三霊水の一つとされる「酒の泉」があります。酒の味がするとのことで日本酒醸造の際の元水にするとよいお酒ができるそうです。落葉が入らないようにネットが張られているので、見えにくいのは残念でした。

小川を渡って少し先には「子種石」があります。その名の通り子供を授かるよう祈願する参拝客が絶えません。また、この石は礼拝石又は助石とも呼ばれ、強飯式で気絶した行者をこの石の上に乗せると蘇生したと伝えられています。

滝尾高徳水神社

「滝尾高徳水神社(たきのおたかとくすいじんじゃ)」は、「滝尾神社」参道石段の登り口の左手にある神社です。奈良県奥吉野にある丹生川上神社の御祭神「罔象女大神(みずはのめのおおかみ)」の御分霊を祭っておられます(「罔象女大神」は天照大神の姉君だそうです)。この神社のご朱印も、日光二荒山神社・本社で頂けます。

滝尾神社のご朱印

日光二荒山神社・本社で頂いたご朱印です。

最後までご覧いただきありがとうございました。東照宮ばかりが注目されがちな日光ですが、滝尾道を通して、とても深いアナザーストーリーがあることに気づかされました。

ギャラリー

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