2017年には、新曲を含む配信限定のベスト・アルバム『Marble』が、オリコンのデジタル・チャートで1位を獲得(注:2018年3月現在、オリコンでは音楽配信とCDやレコードの売り上げを分けて集計している)。その一方で、海外公演を含む大規模なツアーを成功させ、もはや「AAAの日高光啓」という説明が不要になった印象すらあるSKY-HI。2018年に入ってからは、音楽活動以外にも、ケンドリック・ラマーがサウンドトラックに参加した映画「Black Panther」の日本向けコマーシャルを担当するなど、ライブ・ハウスからお茶の間まで、あらゆる場所で人々に愛される、日本屈指の人気ラッパーになった。

このアルバムは、2017年までに彼がSKY-HIの名義で他のアーティストと録音した作品に加え、3つの新曲を収めた編集盤。

本作の1曲目は、2017年のツアーでも披露されている”One Night Boogie”。同ツアーでファンキーな演奏を聴かせてくれた、彼の相棒のようなバンド、スーパー・フライヤーズのダイナミックなパフォーマンスが光るアップ・ナンバーだ。ジェイムズ・ブラウンの影響を受けつつ、ヒップホップのビートとして聴かせるアレンジは、ダップ・トーンズオーサカ・モノレールにも通じるものがある。複雑な伴奏の上で、ラップと歌をスムーズに切り替えるスキルは、「AAAの日高光啓」と「ラッパーのSKY-HI」を両立してきた彼にしかできないものだ。

続く”何様”は、彼自身の手によるプロデュース。フィーチャリング・アーティストとして、独創的な言葉選びと存在感のある声で注目を集めている、ぼくのりりっくのぼうよみを招いた、異色のミディアム・ナンバーだ。マイク・ウィル・メイド・イットが作りそうな、重いビートとチキチキという上物を組み合わせたトラップのビートが格好良い作品。近年はクリエイターとしても頭角を現し、楽器の雑誌でも取り上げられているW-indsのKEITAがアレンジとミックスを担当。全身を震わせる低音と、心に突き刺さる二人の鋭いメッセージを余すことなく伝えている。元でんぱ組incの最上もがを起用した、奇抜なミュージック・ビデオにも注目してほしい。

また、3曲目の”ハリアッ!”は、気鋭のトラック・メイカー、KERENMIがビートを制作、ゲスト・ヴォーカルとして尾崎裕哉を招いたアップ・ナンバー。フレッシュな感性が魅力のKERENMIが提供したトラックは、意外にもドラムンベース。RIP SLYMEの”STEPPER’S DELIGHT”やM-FLOの”EXPO EXPO”などで採用されているものの、テンポの速さやビートな複雑さから、敬遠されることも多い難解なものだ。この手強いトラックを、リラックスした雰囲気で軽やかに乗りこなす二人からは、実力の高さとゆるぎない自信を感じる。今の二人には、「AAAのラップ担当」や「尾崎豊の息子」といった説明が必要ない、確固とした個性と、それを裏付ける実力があることを再確認できる良曲だ。

このアルバムを聴いて改めて感じたことは、彼の交友関係の広さと、音楽に対する造詣の深さ、それを自身の作品に反映する技術の高さだ。大沢伸一やM-FLOなど、クラブ・ミュージックの世界で実績のあるミュージシャンを数多く抱えるavexと契約しているにも関わらず、同社の所属アーティストと組んだ曲は、KEN THE 390の”Turn Up”や、小室哲哉の”Every”、BRIGHTの”BAD GIRL!”など、極めて少ない。その一方で、グラミー賞にノミネートした経験もあるサウンド・クルーのSPICY CHOCOLATE や、強烈な個性と確かな演奏技術で、世界を相手に戦うギタリストのMIYAVI、海外のヒップホップ・アーティストとのコラボレーションも多いDJ Deckstream など、様々な分野のアーティストと積極的に関わり、新しい音楽を生み出している。この、あらゆるジャンルのミュージシャンと結びつく高い行動力と対人能力、限られた録音の機会に最高の作品を作り上げる技術が揃ったことが、彼の音楽を格別のものにしている。

アメリカのケンドリック・ラマーやカナダのドレイク、イギリスのストームジーのように、本格的なヒップホップでポップス市場を席巻するスターが次々と登場し、BIGBANGG-Dragonを筆頭に、BTSのRMやJ-Hope、Block BのZICOなど、ヴォーカル・グループで活動しながら、ラッパーとしても活躍するアーティストが台頭している2018年。このアルバムは、SKY-HIが彼らのように、通好みのヒップホップと多くの人に愛されるポップスの橋渡し役になれる、稀有な存在であることを再認識させてくれる名企画だ。次は誰とどんな化学反応を起こすのか、想像を膨らませるのも楽しい、アーティストSKY-HIの多彩な表現が堪能できる良盤だ。

Producer
SKY-HI etc

Track List ([]内はリリース時の名義)
1. One Night Boogie feat.THE SUPER FLYERS
2. 何様 feat.ぼくのりりっくのぼうよみ
3. ハリアッ! -Fast Fly Ver.- feat.尾崎裕哉 & KERENMI
4. Gemstone [MIYAVI vs SKY-HI]
5. RAPSTA [SKY-HI×SALU]
6. Fresh Salad feat.SKY-HI [tofubeats]
7. Walking on Water (Remix) feat.Lick-G & RAU DEF
8. Turn Up feat.T-Pablow,SKY-HI. [KEN THE 390]
9. 知らなくていい feat.SKY-HI [DJ 松永]
10. Jack The Ripper feat.SKY-HI [SONPUB]
11. Slide 'n' Step -Extended Mix- feat.SKY-HI [KEITA]
12. Last Forever feat.加藤ミリヤ & SKY-HI [SPICY CHOCOLATE]
13. BAD GIRL!! feat.SKY-HI [BRIGHT]
14. Very Berry feat.SKY-HI [FIRE HORNS]
15. タイムトラベリング [Czecho No Republic × SKY-HI]
16. TRIBE feat.SKY-HI,SIMON,Staxx T,JP THE WAVY & DABO [DJ SAAT]
17. Every feat.SKY-HI & K-C-O [小室哲哉]
18. Far East Movement feat.RINO LATINA II & SKY-HI [DJ Deckstream]
19. メリゴ feat.SKY-HI [サイプレス上野とロベルト吉野]