92年にドクター・ドレの”Deep Cover”に客演する形で表舞台に登場。同年に発表された、”Nuthin' but a 'G' Thang”の冒頭で、多くのラッパーに引用されるフレーズを残し、名を上げたスヌープ・ドッグことカルバン・ブロータス。

93年に、ドレがプロデュースを担当した初のスタジオ・アルバム『Doggystyle』を発表。全世界で1000万枚を売り上げる大ヒット作になるが、同時期に殺人事件への関与が疑われたため、一時的に活動が停滞。また、ドレと所属レーベルのオーナー、シュグナイトとの軋轢もあり、2枚目のアルバム『Tha Doggfather』ではドレが制作から外れ、三年のブランクを挟んでのリリースとなる。

その後は、レーベルを移りながら、2017年までに15枚のスタジオ・アルバムと7枚のコラボレーション作品、3枚のEPと多くのミックス・テープを制作。2013年には、スヌープ・ライオンと改名してレゲエ・アルバム『Reincarnated 』を録音し、同じ年にはディム・ファンクと組んだ『7 Days of Funk』発表、2015年にはファレル・ウィリアムスが全面的にプロデュースした『Bush』を発売するなど、作品ごとに個性豊かなミュージシャンを起用し、リスナーの度肝を抜いてきた。

本作は、今年2月に発売されたEP『220』から僅か1か月、スタジオ・アルバムとしても2017年の『Neva Left』以来、約10か月ぶりとなる新作。アルバム毎に様々なコンセプトを提示してきた彼が、本作のテーマに選んだのはゴスペル(余談だが、彼は『Reincarnated 』を録音した時に、ラスタファリズムに改宗したはずだが、現在はどうなったのであろうか?)。ロニー・ベリアルなど、ヒップホップ畑のプロデューサーを多く招く一方、ゲストには、キム・バレルやメアリー・メアリーのような人気ゴスペル・ミュージシャンや、クラーク・シスターズやランス・アレンのようなゴスペル界の大御所、フェイス・エヴァンスやK-Ciのような有名R&Bシンガーまで、個性豊かな面々を招聘。ラッパーの視点を介した、ヒップホップに慣れ親しんだ若者にも楽しめる、キャッチーで格好良いゴスペル作品を残している。

30曲を超える収録曲のなかで、最初に目を惹いたのはフェイス・エヴァンスをフィーチャーした”Saved”。3rdジェネレーションと組ませ、力強いコール&レスポンスを披露した壮大なゴスペル・ナンバーだ。スヌープの声がほとんど入っていないので、どちらかといえばフェイスの新曲っぽい。ヒップホップの要素を織り込んだ曲が多い本作では珍しい、歌の力だけで勝負した良曲だ。

これに対し、『Hidden Figures』のサウンドトラックに収録されている”I See A Victory”でも美しい歌声を聴かせてくれたキム・バレルを起用した”Sunshine Feel Good”はロマンティックなメロディと滑らかな歌が心に残るミディアム。乾いた音色を使った軽快なビートは、ネプチューンズの作品っぽくも聴こえるが、プロデューサーはトネックスの名義で多くのヒット作を残している、西海岸出身のゴスペル・シンガー。B.スレイドだ。ジェイZの2017年作『4:44』でも、美しい歌声を聴かせてくれた彼女だけあって、ヒップホップとの相性は抜群だ。

また、近年はヒップホップやR&Bのミュージシャンとコラボレーションすることが多い、チャーリー・ウィルソンを招いた ”One More Day”は、キーボードの伴奏をバックに朗々と歌う姿が印象的なミディアム・バラード。色っぽい歌唱と、ダイナミックなパフォーマンスをを使い分ける技術が魅力のチャーリーだけあって、この曲でも豊かな表情を見せてくれる。

そして、アルバムの最後を締める ”Words Are Few”は、本作の収録曲を複数手掛けている、B.スレイドが参加した壮大なスロー・ナンバー。トネックス名義の作品でも聴かせてくれた、キャッチーでスタイリッシュなメロディやトラックと、大胆に強弱をつけたヴォーカル・アレンジで、親しみやすさと荘厳さを両立した曲作りは圧巻の一言、脇を固めるスヌープのラップが、曲に起伏をつける手法は、R&Bシンガーとの共演でも多用されているものだ。

このアルバムでスヌープが披露したのは、ヒップホップ・アーティストのフィルターを通した、現代のゴスペル音楽だ。ビートを含む伴奏やアレンジ、メロディでは若者に人気のヒップホップやR&Bの技法を盛り込みつつ、歌詞やヴォーカルでは王道のゴスペル・スタイルをきちんと聴かせる。この絶妙なさじ加減が、本作の醍醐味だと思う。

デビュー20年を超える大ベテランとなり、新しい音楽を開拓するだけでなく、既に存在する音楽の魅力を発掘して再評価する役割も求められれるようになった、スヌープ・ドッグの豊かな経験と高い制作技術が発揮された良作。多くのミュージシャンが自身の原点に掲げるゴスペルの魅力を、現代のヒップホップやR&Bに慣れ親しんだ若いリスナーに届けてくれる面白い作品だ。

Producer
Snoop Dogg, Lonny Bereal etc

Track List
Disc 1
1. Thank You Lord Intro feat. Chris Bolton
2. Love for God feat. Uncle Chucc, The Zion Messengers & K-Ci
3. Always Got Something to Say
4. Defeated feat. John P. Kee
5. In the Name of Jesus feat. October London
6. Going Home feat. Uncle Chucc & The Zion Messengers
7. Saved feat. Faith Evans & 3rd Generation(ereal Family)
8. Sunshine Feel Good feat. Kim Burrell
9. Sunrise feat. Sly Pyper
10. Pure Gold feat. The Clark Sisters
11. Pain feat. B Slade
12. New Wave feat. Mali Music
13. On Time feat. B Slade
14. You feat. Tye Tribbett
15. One More Day feat. Charlie Wilson
Disc 2
1. Bible of Love Interlude feat. Lonny Bereal
2. Come as You Are feat. Marvin Sapp & Mary Mary
3. Talk to God feat. Mali Music & Kim Burrell
4. Changed feat. Isaac Carree & Jazze Pha
5. Praise Him feat. Soopafly
6. Blessing Me Again feat. Rance Allen
7. Blessed & Highly Favored Remix feat. The Clark Sisters
8. Unbelievable feat. Ev3
9. No One Else feat. K-Ci
10. Chizzle feat. Sly Pyper & Daz Dillinger
11. My God feat. James Wright
12. When It's All Over feat. Patti LaBelle
13. Crown feat. Tyrell Urquhart, Jazze Pha & Issac Carree
14. Call Him feat. Fred Hammond
15. Change the World feat. John P. Kee
16. Voices of Praise
17. Words Are Few feat. B Slade