SaintSym3Myun  ライナー・ノーツの重要性
 またまた“レコ芸”5月号の話で、ごくごくわずかながらに恐縮だが、特集記事のなかで音源のネット配信の時代を迎えていることについて、音楽・舞踊評論ライターの山野雄大氏がこう話している*)


 録音を配信で購入する場合に、ライナー・ノーツが読めなくなる例が多いのも問題だと感じています。LP時代、僕らはジャケットの裏の解説を読んで、賛否にかかわらず(笑)、参照しながらレコードを買っていました。CDになってから中のライナーを読んで買うことはできなくなりましたが、配信になると解説を読むことすらできなくなってしまう例があまりに多い。PDFやデジタル・ブックなどで読めるものも限られています。未知の作曲家や知らない曲を聴いて、情報なしに判断することは、おもしろいけれど危険な面もある。啓蒙に重きを置かないとしても、作品や演奏に深くアプローチするきっかけになるライナー・ノーツは大切ですし、そのレヴェルに達していないものが今まで多すぎたということも併せて真剣に考えなければいけない。ひょっとしたら、そのフォローを担っていくのも『レコ芸』の役割のひとつになるかも知れませんね。


 続いて音楽評論家の浅里公三氏が語る。


 最近は、ライナー・ノーツも演奏家についてしか書かれいていないものもあります。作品についての最低限の情報は必要ですね。……


 そうなのである。
 浅里氏の言うとおり、珍しい曲でも楽曲について何にも書かれていないときにはけっこうがっかりしてしまう。

 たとえば、前衛作品なのにヘルベルト・ケーゲルのキャリアしか書かれていなかったりすると、「知ってますよ。拳銃自殺したことは」と、ため口の1つも言いたくなる。

 もっとも作品について詳しく書かれていても、輸入盤だったらちーっともわかりましぇんと、己の無能さによる宝の持ち腐れってことも多々あるのだが……


  私の気持ち、あなたは気づいていないでしょうけど……
 私がブログを始めたのは、いくつかの資料に書かれている楽曲の情報を1つにまとめられればと思ったのがきっかけ。たとえばある楽曲について、A というの本には a という情報が書かれているが、b という情報はない。一方、B という本には b と c という情報が記されているが a には触れられていない。だったら、このブログで a と b と c の情報をまとめて提供できないだろうか?

 そういう、案外と真面目でご親切かつお節介な動機で始めたのだ。


 もっとも持っている資料の数には限界があるし、知っている楽曲の数も限られている。

 演奏の比較がメインのテーマではないが、どうしてもアバドの方がムーティより良いなんてことも書いてしまう。スイマセン。

 中学生のころミュンシュによるサン=サーンスの交響曲第3番(これはいまでも名演と言われる)の廉価盤(RCA)を買ったとき、ジャケット裏面に書かれていた楽譜を用いた解説にいたく感動したものだった。
 もっとも、そのころは楽譜を見てもちっとも実際のメロディーと結びつかなかったけど(それぐらい音楽が苦手だったのだ)。
 逆に、楽譜を並べて、このテーマがどうのとか第2主題がああなってとかいう記述は万人向けではないとも思った。
 
 それなのに、いまでは記事でスコアを掲載したりして、すっかり生意気の知ったかぶりをしてゴメンナサイ。はっきり言って、私は曲を聴きながらスコアを追うことはできても、スコアを見て脳にメロディを浮かべさせることはできません。

SSaensSym3_Theme1  友でもないのにすっかりなじんでいる名前
 今日はそのミュンシュ/ボストン交響楽団によるサン=サーンス(Camille Saint-Saens 1835-1921 フランス)の交響曲第3番ハ短調Op.78(1886)。
 編成にオルガンが入るので「オルガン付き」と呼ばれる交響曲である。もっともピアノだって加わっているのだが……。

 ここでオルガンを弾いているのはザムコヒアン。
 もう何十年にもわたってこの名を目にしてきた。よかった、ダミアンとかいう名前じゃなくて。

 交響曲第3番はサン=サーンスの作品の中でも人気が高いもので、グレゴリオ聖歌と同じ音型をもつ主題(譜例。掲載したスコアは全音楽譜出版社のもの)が循環して全曲中に現れる。


 曲は2つの部分に分かれており、第1部、第2部がさらに2つに分かれる。そのため、第1部が通常の交響曲の第1楽章と第2楽章に、第2部が第3楽章と第4楽章に相当する。

 上の循環主題のほかにもう1つ循環主題があり、それは第1部後半部の始まりで、穏やかなオルガンの和音に導かれるようにして現れる弦のユニゾンによる主題である。


 ミュンシュの“わが青春の1枚”と言うべきこの演奏は、私が生まれるより前の1959年の録音。RCA。


 *) “レコード芸術”2017年5月号 記念特集:創刊800号-『レコード芸術』の過去・現在・未来