Mahler01Zinman  寝ているうちにあなたはバイキンマン
 先週、札幌へ出張する日の朝。

 目覚めて、タオルケットを足で蹴っ飛ばそうと思ったら、すでに寝相の悪さからか、あるいは地縛霊が悪さしたからか、タオルケットは足の届かない場所に巨大なボロ雑巾のように横たわっており、どうりで寒かったはずだわいと、持ち前の血圧の高さからすっと起き上がり、まずは歯を磨きにやや寒い洗面所に行った。

 もともとの私の歯磨き習慣は、朝食後にという順番だったのだが、ある健康雑誌に夜間のうちに口のなかはバイキンがいっぱいになるので、そのばばっちぃまま目覚めの1杯(もちろん酒でなく水である)なんて飲むと、バイキンをそのまま飲み込むようなもので、そんなことが良いことと思いますか?と書かれていたのを読んでから、私は独り「ううん。良くなこと……」と首を横に振り、枯渇した身体に水を補給する前に、まずは歯磨きをすることにしている。
 断っておくが、もちろん朝食後も歯磨きをしている(食後は唾液の分泌が盛んなので、歯を磨くのは好ましくないと、その健康雑誌には書いてあったが……)。

  コーチンたちが私のことについて噂している?
 歯を磨き終えるや否や、くしゃみが出た。
 それも、ハァークション、ハァークヒョン、ハァークチョンと、3回連続である。ルルのCM出演依頼がきそうなくらい模範的3連続くしゃみであった。

 日の出前から私のことを噂している-もちろん内容は「素敵な人ね」といったたぐいのものに違いない-人がいるという心当たりはなく、はて、どうしたのかなと疑問に思うや否や、こんどは鼻水がつーっと、と書いたものの、実際には音もなく垂れてきた。

 鼻の穴をティシュで押さえつけると、それは無色透明で粘度が極めて低いものだった。


 そのとき、私の頭に回平係長の笑顔が浮かんだ。

 パン屋休業のことではない。
 彼が今月に入り、突如花粉症になったということだ。


 私も突如、花粉症になったのだろうか?
 花粉になるよりはるかにマシだが、花粉症になるのは勘弁願いたい。

 それにしても、マンションの部屋のなかで?

 部屋に置いてあるオリーヴは青々しくなく、フェイクグリーンのように花を咲かすどころか新芽も出していない植物人間状態のようなままだし、アロエは青々しいが生育環境に満足しているのか花をつけようとしていない。
 じゃあ、花粉症じゃないんじゃないか?(って、オリーヴやアロエの花粉症なんて聞いたことがないし)。

 だが、私も今年で道外での勤務が通算で7年目となる。
 花粉への抗体が蓄積し、閾値を超えてもおかしくない。笑いたくもない。


 くしゃみはそれほど激しくないが、鼻水は止まらない。
 ちまちまツーツーと、細い流れが連続する。

 おかげで部屋を出るまでの2時間の間に、かみすぎですっかりと鼻が痛くなってしまった。


 外に出て症状がひどくなれば花粉症(スギ)に間違いない。
 が、外に出ても間違いないと判断できるような悪化は見られない。涙も涸れたままだ。

 いったん支社に出てから、セントレアへ行く。

 中部セントレア空港に着くと、少し鼻水が治まった。
 鳥そぼろ弁当を食べたおかげだろうか?が、このように治まるということは、風邪ではなく花粉症である可能性が高まったということだ。

 飛行機に乗る。
 症状は治まったまま。やはり花粉症だったのだろうか?

 が、途中からまた水っ洟(みずっぱな)が出始めた。
 ブラキストン線を越えてしまったせいだろうか?

 けど、北海道に近づくにつれまた症状が出るというのは、花粉症としてはおかしい。
 道南地方は別として北海道にはスギはないし、北海道における花粉症の原因であるイネ科植物やシラカバに対しては、私はアレルギーをもっていない(まだ花粉の時期でもない)。
 だいいち、密閉されたジェット機内にいるのだ。

 じゃあ、タオルケットを蹴とばして寝ていたせいで風邪をひいたのだろうか?
 でも、熱はないし、喉も痛くない。
 私の体はどないしてしまったのだろう?


  頼りになる看護師さん
 用務の合間を縫って、恒例の診察のために病院に行った。

 看護師さんが「調子はその後どうですか?」というので、訊かれていることとは筋が違っているとは百も承知で「くしゃみが出て、鼻水が出ます。風邪か花粉症かわからないのです」と、トナカイのような鼻を悲劇の証拠として示しながら訴えた。

 彼女はメモを取る。くしゃみ、鼻水……。
 よかった。そのあとにコンタックと書かれなくて。


 話題が途切れたので、私は現実的なことを尋ねた。
 「4月に入ってすぐに人間ドックを受けますが、それでも今日、採血検査をした方がいいんでしょうか?」
 「いや、いいんじゃないですか。それなら」

 看護師は私の側に立ってくれた。医師に確認することもなく、採血を免除してくれた。
 すてきな女性だ。彼女なら戦場に行っても気丈に仕事をするに違いない。

 と同時に、くしゃみと鼻水の件はうやむやになった。

 しかし医師の診察の際には、いちおう鼻炎の薬を出しておきましょうということで、処方してもらうことができた。処方してもらえることで安心したのか、鼻水は止まった。

 マーラー(Gustav Mahler 1860-1911 オーストリア)の交響曲第1番ニ長調(1884?-'88/改訂1893-'96)。
 今日は「花の章」付きの演奏。

 この交響曲はもともと5つの楽章からなる交響詩として作曲された。

 1889年にマーラー自身の指揮によって初演されたのが最初の版(ブダペスト稿)だが、この楽譜は残っていない。またこの時点では曲に標題は付いていない。


 ブダペスト稿の初演後にマーラーは改訂を行ない、1893年に演奏。ここで「巨人(Titan)」という標題が付けられた。この第2稿、そして先のブダペスト稿で第2楽章に置かれていたのが「花の章(Blumine)」である。


 1896年にマーラーは第2楽章「花の章」を削除して、4楽章構成の交響曲とした。
 交響詩は2部構成5楽章だったが2部に分けることも、また標題も削除された。

 したがって、“交響曲”第1番としてなら削除された“花の章”を入れるのは余計なお世話であるし、聴くとマーラーがこの楽章をカットしたのもわからないわけではない。

 とはいえ、どんなものだったか聴いてみたいなぁというおスケベなあなた(私を含む)には、うれしいサービスってことになる。


 「花の章」付きの演奏の録音はいくつか出ているが、今日はジンマン指揮チューリヒ・トーンハレ管弦楽団の演奏を。


 2006年録音。RCA。
 SACDハイブリッド。


 北海道滞在中も、当初は鼻水が出たり出なかったり。

 そして20日の午後に名古屋に戻ってきたわけだが、花粉が飛散するには絶好の好天。
 しかし、くしゃみも出なけりゃ鼻水も出ない。

 翌21日。症状はまったくなし。ただし、朝からずっと雨だったので花粉が飛び交っていなかったのだろう。

 昨日は朝起きると、クシャミとわずかに鼻水が。
 好天のなかを健康のために2つ先の駅まで歩いたが、くしゃみのくの字もなけりゃあ、鼻水も垂れてこない。

 風邪だったんでしょうか?
 だったらうれしい(ふつうは風邪をひいて喜ぶ人はいないけど)。

 ただ、マンションの部屋で、なぜ朝にくしゃみがでるのかが気にかかる。