『蟲(むし)』見慣れた動植物とは違う、時にヒトに妖しき影響を及ぼすもの。
蟲師(むしし)は、それらを調査し在るべき様を示す。
ヒトと蟲の世を繋ぐ者、蟲師ギンコの旅の物語。
★前のお話は→
蟲師 続章 あらすじまとめ
★蟲師1~26話 特別篇は→
蟲師 あらすじまとめ
蟲師 続章 第14話「隠り江」
ゆらが発作で苦しいとき、いつもスミが助けに来てくれた。ゆらの助けてという声が離れていたも聞こえるのだとスミは言った。ゆらはスミにずっと家にいてねと言った。
水路の町を行くギンコ。途中、舟から見かけた少女の家をたずねる。出て来た少女の父親に、お嬢さんは少々厄介な癖があるのではと聞く。時折、抜け殻のようになってしばらく意識が戻らないというような。何のことだと言う父親に放っておくとますます厄介なことになりますよと言った。
娘のゆらは抜け殻のようになっていたが、父に何度も名を呼ばれてやっと戻った。ギンコがその癖を治してくれるそうだと話すが、誰も治してなんか言ってない、出て行ってよとゆらは言った。スミと話していたんだからと言うゆらに、バカなことは言っていないで、いい加減スミのことは忘れろ。あれはもう家の使用人を辞めたのだからと父親は言った。
でもスミは今でも私が臥せっているとわかって大丈夫と言ってくれる。そうしたら苦しいのも楽になるのよとゆらは言った。その人との間に深い
水脈(みお)が通ったんだなとギンコ。人と人の意識の間には見えない通路があるという。ちょうどこの町に張り巡らされた水路のように裏庭ですべての水路がつながっていて、そこには五識を補うもの、蟲師のいう
妖質というものが流れている。
だが水かさが少ないところも多く、おまけに入り組んでいて地図もない。それでも水路はつながっているので、望む相手に会えることもたまにある。するとお互い同時に相手のことを思い出すような、いわゆる「虫の知らせ」が起こる。それを思うままに起こせる蟲がいる。
「
カイロギ」は妖質の豊かな者の意識に棲み、主と同調し自由に水脈を往来し、望む相手に思いを届けることができる。お前さんのようになとギンコはゆらに言ったが、ゆらは蟲なんて関係ないと言った。ギンコは、必要とすれば誰のところにでも行けるはずなんだがなと言った。
だが、繰り返しカイロギを使うとやがて人の意識を乗せたまま自分の意思で動き始める。すると人はその間、意識を奪われるようになる。そしていつかは、二度と意識が戻らなくなってしまう。当分その能力を使うのをやめさえすれば害はないとギンコ。ゆらは無理よと言った。
発作が起きたらいつの間にかスミのところに行ってしまうとゆら。そうとう進行しちまっているようだなとギンコは言い妖質を一時的に枯らす薬を渡した。飲めばカイロギは動けなくなる。でも発作が起きたときスミの声が聞けなきゃ怖いとゆら。父親は、気のせいだ、胸の病はじっとして気を落ち着かせていれば大丈夫だと言った。
急には難しいかもしれないが、ひとりの問題じゃない、スミにもすでに伝染しているなとギンコ。同じところに繰り返し行けば相手にもカイロギがわく。薬を飲んでおいたほうが身のためだぞと言うとギンコはスミのところに向かった。
ギンコの話を聞いたスミは、嬢ちゃんは薬を飲むのはきっと無理ねと言った。ひどく寂しがりやで臆病だから。そして自分にも薬をくれないかと言った。これを機にもうつながりを断ちたいからと。ゆらのところに戻ったギンコはスミが薬を飲むと言ったこと、それと預かってきた手紙を渡した。
手紙には、もう私に頼るのはやめてください。お元気でと書いてあった。いつでも困ったら呼んでねと言ったのに、本当は迷惑だったのか。だったら謝るからとスミを呼んだ。答はなく、スミは泣いているようだった。父親にいい加減にしろと言われてゆらはわかったと答えた。薬を飲むからひとりにしてくれと言った。
ゆらはひとりで家を抜け出して、水路を舟でスミのところへ向かう。スミが泣いていた。何があったの? 私も少しはスミの役に立てるかな。ずっと頼ってばかりでごめんね。
ゆらの父はスミに、母親代わりに本当によくやってくれたが、ゆらはお前が来てから弱くなる一方だと言った。お前になつくあまり他の者を拒むようになった。外で遊ぶこともせず、お前とは話さなくても心が通じると言い、それを諭せばますます拒む。お前が側にいる限りゆらは変わらないだろう。すまないが、あの子のためなんだ。そう言ってスミを里に帰した。
舟を漕いでいたゆらに発作が起きた。もうスミに頼っちゃだめだと思うが竿を落とし倒れてしまう。水路を流されるゆら。誰もいない、妙なものが泳いでいる。戻ってスミのところへと思うが竿がない。どんどん流されてしまう。「誰かお願い助けて」心の中で叫ぶ。
ゆらの願いが多くの人に伝わった。夢に女の子が出てきて海に流されそうになっている。女の子が助けてと呼んでいる。ゆらを探す父親とギンコにもゆらの助けてという声が伝わる。たくさんの人が集まって無事ゆらを見つけた。スミの家で父親に薬を飲むまで見ていると言われ、ゆらは薬を飲んだ。
ようやく懲りたようだなとギンコ。スミは薬は全部は飲めなかったと言った。やっぱり嬢ちゃんが心配で。ダメね、わざわざあんな文まで書いたのに。やっぱり寂しくなるなと言うゆらとスミにギンコは、会いに行きゃいいだろと言った。水路は変わらずつながっているんだ。
自分で漕ぐのが無理なうちは誰かの舟に乗っけてもらえばいい。苦しくなれば町の誰かが助けてくれる。そうしていいかと聞くゆらに父は渋々頷いた。スミはもちろんよと笑顔で答えた。
自分で舟を漕いでゆらはスミのところに来れるようになった。遊びに来たよと手を振るゆら。また合図を送ったでしょとスミが言うと、いいでしょ、たまになんだからと明るく笑った。
☆次回 「光の緒」