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で、気失ってから何日経ったかなんて気にする間もなく目ぇ覚めたんだ!ってわかったらすぐ、
兄さん背負って逃げた。 
家に帰るのは正直すごく怖かったが、そこしか行くとこはなかった。俺の体は軽かったけど、
兄さんまだぐったりしてたし。 
家に帰ってみたところ、父さんも母さんも特になにも言ってはこなかった。ただ異常ににこにこにこにこにこにこしてるだけで。気味悪いことに変わりはなかったからすぐ二階に引っ込んだよ。 
俺の部屋行って布団しいて、兄さん寝かせてやった。 


兄さん「おんぶとか…おい…駅恥ずかしかっただろ…ありがと……」 
俺「気にすんなよ寝ろ!寝てろ!いいから!」 
兄さん「でも気になるだろいろいろ……」 
俺「なるけど!寝ろ!」 
兄さん「ごめんでも…話さないと気がすまない…」 
俺「わかったよゆっくりな!!」 


兄さんが説明したこと、ここまで長くなりすぎたんで簡潔に言う。 

・あの緑のは、簡単に言うと妙なものが見れるようになるもの(兄さんも詳しい事情はわからないらしいので、なんなのかはわからないみたいだった)

・いつ飲ませるかとかのタイミングは定められてないが、一家の血筋に男が産まれたら兄弟だろうと双子だろうととにかく飲ませなきゃならない決まり。代々そうしてきたそう 

・飲ませる役目は、その男の祖父母にあたる男女が担う(母さんが一家の血筋にあたるので、俺たちの場合は母方の祖父母だった) 

・この一件はすごくめでたいことらしい 

・兄さんはこの話を母と祖母の電話してるとこから聞いた

一気に話し終えられて、現実味のなさに頭おかしくなりそうだったけど、父さん母さんと祖父母の奇行を見たあとだと信じるしかなかった。 
とりあえず、俺はまず妙なものってなんだよ、って兄さんに聞こうとして、気づいた。 
目を凝らしてみて気づいた。 

俺の部屋のソファーとか、PS3とか、窓から見える外の電線に、見えた。 
黒かったり白かったり赤かったり緑だったりする。動く肉片も見えるし、チン毛みたいのが跳ねてるのも見える、半透明の芋虫も見える。手の指が散らばってるのも見える。 
ごめん、俺の語彙力じゃどう伝えていいかわからないけど、妙なものってこれだって俺は気づいた。
今まで必死で気づけなかったみたいだけど。 
もう、いろんな事情とか、聞きたくもないしどうでもよくなったよ。

ちょっと話が飛ぶが、俺と兄さんは二人して引っ越すことにしたんだ。 
父さん母さんにも祖父母にも、どう接していいかわからないでいて、
微妙な態度しかとれない俺たちを、
何もなかったみたいに戻った父さん母さんは気遣ってくれたみたいだ。 
今は某県の某所のアパートに住んでる。 

あんなことがあったあとだから、俺も兄さんも正直助かった。 
あの緑のに身体的な後遺症とかそういうものはないって兄さんは言ってたんだが、兄さんは少し風邪引きやすくなったし、熱もよく出すようになって、体弱くなったように感じる。 
俺からしたら。 

生活費や学費は親が仕送りしてくれてる。が、あの時庇ってくれた(俺の推測だと、あの緑のものは飲めば飲むほど効果?が強くなって駄目なんだと思う)兄さんに本当苦労かけたくなくって、今はバイトしまくってる。 
勉強もそれなりにしながら。 

何よりも、俺が見る妙なものを、俺なりに兄さんに伝えてみたときの 


兄さん「よかった、本当によかった、お前はそれで済んでるんだな?」 


って泣きながら言ってきた兄さんを、少しでも楽させてやりたい。
俺の見てるのなんか気にしてられないって思うんだ。 
兄さんには何が見えてるんだろう。