これは1998年10月のことになるのかな。
アイルランドを3週間かけて周っていました。ダブリンから南のキラーニーに下って、リムリック、ゴールウェイ、イニシュモア、コネマラ、イニシュボーフィン、スライゴーまで北上して、そこからダブリンに戻りました。たった3週間じゃ、北に行く余裕はなかったな。
さてスライゴーからの列車がダブリンに着いたのは、まだ早い時間とは言え日が暮れた後でした。
アイルランド到着時にもダブリンにはおりましたが、ダブリンからキラーニーへはバスで移動したので鉄道駅は使っていなかった。よって駅からの土地勘はまったくなくて、地図を広げながら歩き出しました。
宿泊を予定していたホステルは町の中心部にあって駅からもそう遠くはないはずなのに、大通りをしばらく歩くとなんとなく静かになってきた。賑やかな人通りも減り、お店などの灯りも少な くなっていく…。これは方向を間違えているのではと思い、駅にUターン。(ええ、地図を確認しながら全然違う方に歩いていく人間もいるんですよ…)
地図を再度確認し、駅前の道路を渡ろうと信号が変わるのを待ちました。……が、か~なり長いこと待ったのに青にならない。変に思ってよく見れば、押しボタン式じゃねーか!
恥ずかしくなっちゃって、誰にも気付かれてないよね~と照れながらさりげなく周りを見渡し…
ギョッとしました。
ギョッとしました。
さっきUターンした時、私の後ろを同じ方向に歩いていた男を正面から見ることになったわけですが、その男がまた、私のすぐ後ろに立っていたんです。
なんでこいつもUターンしたの?
なんでこいつも変わらない信号を何分も待っていたの?
こんなの絶対おかしい!
狙われていると気付いて一気に緊張しました。宿は駅の近くのはずだけど、もしまた迷ったら? もし道が暗かったら? もしひと気がなかったら…?
被害に遭う前に確実な対策を練るべきと考え、そばを通りかかった小さな子どもを連れた女性に道を確認しました。すると親切なことにそのお母さんは、説明しにくいから途中まで一緒に行くわと言ってくれたのです。本当に嬉しかった…。道を教えてくれるだけでももちろん充分でしたが、一番欲しかったのは連れでした。
その親子と別れた時には、もう例の男の姿は見当たりませんでした 。
よく考えなくてもわかることですが、大荷物を背負った外国人観光客が夜に一人で駅から地図を広げながら暗い方に歩いていくなんて、ネギを背負ったカモが自分の羽を毟りながら鍋に飛び込んでいくようなもの。駅を出る前に地図を確認して、自信がなければ駅員か誰かにちゃんと教えてもらうべきでした。
あの時、あの信号での勘違いがなかったら、私は怖い目に遭っていたのかもしれない…。
あの時、あの信号での勘違いがなかったら、私は怖い目に遭っていたのかもしれない…。