婚活に疲れた貴女へ 東大・社会学の先生が贈る現実的なアドバイス

 
「いい男がいない理由」を社会学の観点から解き明かした前回に引き続き、今回も、歴史社会学やセクシュアリティ研究がご専門の東京大学准教授・赤川学(あかがわ・まなぶ)先生と一緒に考えていきます。

 
赤川:最近、学生の中に「離婚保険」なるものを提案している人がいました。

??離婚保険ですか……?

赤川:離婚した時に、保険金が下りるという制度です。自動車保険に加入して、事故が起きた時に保険金がもらえるのと同じ仕組みですね。

??確かに、子どもができてから離婚した場合、女性が親権を持ってシングルマザーとして育てていく場合が大多数ですから、保険金がもらえるのは助かるかも。最近は元夫から養育費がもらえないケースもよく聞くし。

赤川:ポイントは、「保険でもないと、結婚する気になれない」と考えている女性が少なくないという点です。

自動車保険がなければ、いくら快適でも怖くて誰も車の運転なんかしませんよね。それと同じで、保険でもないと結婚も出産もリスキーすぎてできない、と。結婚はリスクでしかないという考えかたです。


 
離婚保険はいいかもな。浮気で離婚とかの時にもらえるとかさ。まあ、保険金目当ての離婚も出てきそうではあるが。

 
赤川:今って、よく少子化対策が叫ばれるじゃないですか。女性活躍社会しかり、保育園問題しかり。政府がやろうとしていることのすべてに、「みんな結婚して子どもを作りたいのに、それができないからなんとかしなきゃ」っていう前提が埋め込まれているんです。でも、本当にそうなのかな?って私は疑っていて。

??どういうことですか?

赤川:みんな、政府が考えてるほど、結婚もしたくないし、子どもが欲しいわけでもないんじゃないの?と。



これは、そのとおりだろな。ただ、少子化の進展で社会保障制度が危うくなるのは事実だと思うので、国としての立場を国民に示してもいいと思う。社会保障制度が崩壊したら困るのは、国民自身なんだしさ。

 
赤川:みなさん、お気づきでないかもしれませんが、これでも世界的に見て日本って、結婚しない人にやさしい社会なんですよ。よくフランスや北欧が「理想郷」みたいに語られますよね。子育てに関する社会保障が充実していて、長時間労働がないのでみんながワークライフバランスを実現できてる、みたいな。

??確かに、よく見ますね。

赤川:でも、あれって、「みんなが結婚して子どもを産むこと」に最適化した社会なんです。逆に言えば、それ以外の生きかたをしたい人は居づらい社会、子どもを産むことに対するプレシャーがとても強い社会ということ。どこに行くにもカップルが前提ですし、納めた税金のかなりの部分が子どもを産んで育てることに回されちゃう。

 
赤川:おもしろいデータがあるんです。スウェーデンは政府が子どもの社会福祉に関する支出を増やすと、子どもは増え、減らすと子どもも減るんです。つまり出産、保育、教育などにいろいろと手当がつくことが、女性にとって産むインセンティブになっているわけです。ところが、日本って、全然そうじゃないんですよね。少子化を食い止めようと、結婚して子どもを産みやすくなるような経済的施策をしても、結婚する人も出産する人も全然増えません。

日本の女性はそんなに甘くないと思うんです。「いろいろ手当がついておトクだから、結婚して子どもを産もう」とはならない。

??確かに、「手当がついておトクだから結婚しよう」はないですね。

赤川:でしょ。本当はもう婚活市場から降りたい女性も少なくないんじゃないか? そう感じるんですよね。今の時代は「少子化対策=善」みたいな空気なので、「結婚したくないし、産みたくもない」という声が圧殺されちゃってますけど、案外、「面倒くさいだけだし、別に結婚しなくていいや」という女性はいるんじゃないかな。

 
前の記事にも

「3高のイクメン」なんか、無理ですよ。北欧にも、フランスにも、アメリカにも、どこにもいません。

という記載があった。この国では、結婚や恋愛の理想を欧米に求める傾向があるように思うので、欧米でもそんなものはないとか、欧米とは違う、という指摘が、非現実的な高望み対策と並んで未婚化対策の上では有効なんじゃないだろうか。

ただそれを男性側から言うと「開き直り」って疑いをかけられるかもしれないな。女性の研究者が「それは非現実的ですよ」とか「欧米でもそんな人いません(希少です)」なんて言うと効果があるかもしれない。

結婚や恋愛に関する国民の関心自体は、高いと思う。NHKあたりが、一度本格的な討論番組を5時間ぐらいやれば、現実的な方向に議論が進んでいくかもしれないな。