July 19, 2017

教育インフラとしての自転車

子供たちは、そろそろ夏休みでしょうか。


地域や学校によって少しずつ違うようですが、小学校では今週から来週にかけて夏休みに入るところが多いようです。近くに通学路のあるお宅なら、朝夕の子供のにぎやかな声が聞こえなくなって、静かになるのが少しさびしいという方もあるかも知れません。

通学路に面していなかったとしても、子供が登下校する姿は見慣れた光景でしょう。でも、これは日本特有だと言います。訪日した外国人が、子供たちだけで登下校しているのを見ると驚きます。他の先進国では、安全上、親が送り迎えするかスクールバスなどを利用するのが当たり前で、子供たちだけの登校姿はありません。

それだけ日本の治安が良いということですが、諸外国では考えられないことだそうです。日本に来た外国人が驚くことの一つです。最近は日本でも誘拐事件が起きたりして、スクールバスを導入したりするところも増えているようですが、子供たちだけで登下校している姿は珍しくありません。

さて、治安の良さということは別にしても、日本では身近な場所に学校があります。小学校は、選挙の際の投票所になっていたり、災害などの際の避難場所になっているなど、多くの地域で身近な施設となっています。都市部などでは学区が細かく分かれ、各地区ごとに小学校があります。

中学、高校となると、多少遠くなって自転車、あるいはバスや電車で通学する距離になるかも知れません。それでも身近なところに学校があります。離島や山間部など、一部例外はあるにせよ、日本全国、あまねく学校が建てられており、誰でも近くの学校に通えるようになっています。

日本では、それが当たり前です。しかし世界を見渡すと、それは必ずしも常識ではありません。教育のインフラの基本となるべき学校の整備が十分ではなく、子供が教育を受けられない、受けるのが困難な状況にある国もあります。そのうちの一つに、アフリカ・サブサハラの国、ザンビアがあります。

World Bicycle ReliefWorld Bicycle Relief

世界銀行の調べによれば、ザンビアの国民の半数が一日2ドル以下で生活しています。ザンビアの子供のうち、470万人が貧困層に属しており、とくに農村地域の37万5千人以上の子供は学校に通っていません。かろうじて学校に通っている子供も、とても困難な状況に置かれています。

学校が少なく、遠いのです。片道10キロ以上の道のりを通わなくてはならない子供も少なくありません。それも、日本のように舗装された道路ではありません。ザンビアでは未舗装の、必ずしも安全とは限らないような道を、毎日往復4時間とか5時間歩かなくてはならないような子供も少なくないのです。

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貧困層で農村地帯の子供は、農作業の貴重な労働力のため、多くは学校に通えません。毎日、何時間もかかる水汲みも子供の仕事だったりします。かろうじて学校に通える状況になったとしても、片道2時間も3時間もかけて通わなくてはならないのでは、かなり困難な状況と言わざるを得ません。

以前、発展途上国への援助は、食糧援助などの直接的、緊急なものが多くの部分を占めていました。たしかに、それで救われる命がたくさんあります。しかし、それだけでは状況は改善していきません。食料そのものではなく、食料を継続的に得るための手段が必要です。

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人々が収入を得て自立することが必要です。そのために農業をはじめとする産業振興や職業訓練、雇用の創出支援などもありますが、重要とされるのが教育です。次世代を担う子供たちを教育し、将来自活する手段を得て、貧困から脱出し、国を発展させなければなりません。遠回りのようでも教育が一番重要なのです。

教育インフラへの援助も行われ、学校も建設されてはいますが、日本のように、少し歩けば学校があるというわけにはいきません。貧困状態にある家庭が、貧しくても子供を学校に通わせ、未来を切り開き、貧困から脱したいと思っても、物理的な距離が邪魔するケースも多いわけです。

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もちろん、日本の子供より健脚なのは間違いないとしても、毎日何時間も歩くのでは、通学するのもたいへんです。家の仕事の手伝いもしなければなりません。勉強をするより前に、学校に行くだけで困難であり、通学を続けられなくなる子も当然出てきます。

かと言って、スクールバスなどありません。鉄道や路線バス、タクシーも自家用車もありません。あっても、交通費や燃料代は支払えないため、歩くしかないのです。しかし、そんな状況の中で、もし自転車が使えたら違います。自転車があれば、その機動力によって、通学環境が劇的に改善します。

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そこに力を入れているのが、“World Bicycle Relief”です。これまでにも何度か取り上げましたが、自転車を通じて世界規模の支援活動をしているNPOです。発展途上国に自転車を提供することで、貧困からの自立や生活環境の改善を手助けしている組織です。

先進国において自転車は、趣味やスポーツであり、エコで手軽な移動手段ですが、途上国においては違います。公共交通が発達しておらず、クルマもオートバイも所有できない貧困層にとって、自転車は死活的に重要な役割を果たす貴重な移動手段、そして命綱となるケースが少なくありません。

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自転車があって初めて、工場や鉱山に働きに行ける人、つくった農作物を市場まで運べる人、水汲みに行ったり食料を手に入れられる人たちがいます。救急車の代わりに街まで運ぶ手段として、自転車が文字通り命綱になっている村もあります。アフリカなどの途上国では、自転車の役割、意味合い、重みが違うわけです。

自転車を贈ると言っても、日本の自治体が思いつきで、撤去した放置自転車を送って一石二鳥というのとはワケが違います。アフリカの未舗装の道路でも使える実用的な自転車を提供する必要があります。加えて修理やメンテナンスの技術を教えたり、部品調達なども含め、継続して使うためのサポートがなければ意味がないのです。

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さらには、自分たちで自転車を製造したり、修理工場を立ち上げる支援などもしています。自転車の製造や販売、修理などが産業として根付けば、雇用を創出します。現地生産で自転車を使える人も増え、相乗効果が得られます。このような活動をしているのが、“World Bicycle Relief”です。

その“World Bicycle Relief”が、今月から新しいキャンペーンを行っています。それが、“WHEELS IN THE FIELD ZAMBIA, THE NEXT GENERATION”です。ザンビアの次世代を切り開く子供たちに自転車を提供しようという活動で、多くの人の支援を募っています。



日本の子供にとって自転車は、誕生日やクリスマスのプレゼントだったり、たくさんある遊び道具の一つかも知れません。自転車よりゲーム機がいいと喜ばない子もいるでしょう。しかし、ザンビアの貧困層の子供にとって、自転車は計り知れない恩恵をもたらす、神様からの贈り物となります。

自転車があれば、学校に通えます。あるいは、通学を続けることが可能になります。実際に、これまでに5万台以上の自転車を提供し、5万人以上の生徒の生活を変えました。物理的な距離を克服する手伝いをすることで、彼ら彼女らの未来を切り開くことになるのです。

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ある教育プログラムの調査によれば、これによって学生たちの出席率は28%増加し、学業成績は59%向上したと言います。ユネスコによれば、女の子が二次教育を受けた場合、子供の権利の侵害であり、子供の成長発達に悪い影響を与える児童婚が64%減少するそうですが、その点にも貢献しているのは間違いありません。

自転車であることが重要です。仮にオートバイだったら、もっとラクに速く通えるかも知れませんが、燃料代が払えません。自転車ならば、ランニングコストは僅かですし、自分で修理することも出来ます。ほかの手段ではなく、自転車だからこそ自分たちで維持できるわけです。

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サイトを見ると、“World Bicycle Relief”から自転車の提供を受けたことで、自立の手段を手に入れた子、夢の実現に近づいた子、大きく人生が変わった子、たくさんの子供の物語が載っています。自分の足以外に移動手段を持たない人々にとって、自転車は単なる道具を超えた、とても大きな存在となっているのです。

ザンビアと違って、幸いなことに日本では身近な場所に学校があります。多少遠ければ、いつでも自転車を使うことが出来ます。少なくとも通学が困難ということはありません。ふだん当たり前のように思っていますが、決して当たり前のことではないことに、あらためて思いを致すべきなのかも知れません。




ようやく中国地方から関東甲信まで梅雨が明けたようです。もう十分に暑いですが、さらに暑さが増すようです。

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